腰痛と予防財団法人 社会保険健康事業財団提供


人間は直立歩行します。からだのバランスをとるために背骨がゆるやかにS状に湾曲しています。しかし、腰の部分のカーブに上から体重がかかるため、腰痛が起こるのです。背骨は、腹筋や背筋など周囲の筋肉で支えられていますが、筋肉が少なくて弱かったり、筋肉間の力のバランスが悪かったり、姿勢が悪いことによって腰椎の前方への湾曲が強くなると、腰の筋肉や骨に過度の負担がかかり、腰痛が起こります。
 また腰痛は、婦人科系の病気や、腎臓の病気など内臓疾患が原因となる腰痛や、ストレスや自律神経失調など心因性の腰痛もあります。



主な腰痛
<腰痛症>
 長時間同じ姿勢を続けたり、無理な姿勢をした後など悪い姿勢や運動不足、肥満、全身の疲れなどにより、腰の筋肉の血行が悪くなり、筋肉疲労を起こすことが原因で起こります。重く張ったようなだるいような痛みが続き、慢性化する場合も。


<変形性脊椎症・椎間板症>
 老化により椎間板の水分が減少し、弾力性がなくなる(椎間板症)と、脊椎骨の縁の部分が変形(変形性脊椎症)してくることによって起こります。朝の起きがけや明け方に痛み、起きて体を動かすうちに痛みが和らいできます。ぎっくり腰を起こしやすいので注意しましょう。

<椎間板ヘルニア>
 腰椎を構成する骨(椎骨)のつなぎ目の軟骨組織の椎間板が損傷し、中にある髄核がはみ出し、足や腰に通じる神経を圧迫して痛みを起こします。腰を曲げないと痛みで立っていられないほどの腰痛と下肢の痛みがあります。        


<ぎっくり腰(急性腰痛症)>
 物を持ち上げたり、ひねったはずみで起こり、激痛が走ります。腰の捻挫や急性の筋肉痛、肉離れから起こることが多いのですが、急性の椎間板ヘルニアや骨粗鬆症で急に骨がつぶれたような場合もあります。

<脊椎分離症・脊椎すべり症>
 椎骨の一部に切れ目ができたり(脊椎分離症)、分離した椎骨の上の部分が前にすべり出して(脊椎すべり症)起こります。腰痛症のような痛みが出て、ときには下肢の痛みやしびれもあります。

<骨粗鬆症>
 骨が弱くもろくなり、背骨がつぶれたり、細かい骨折を起こしやすくなっている状態です。カルシウム不足が影響して老化とともに進み、特に高齢の女性に多い病気で、背中や腰の骨が慢性的に痛みます。


生活習慣改善アドバイス
(1)腰痛予防には腰に負担のかからない正しい姿勢が最も大切です。
○ 立つ:あごをやや引いて首と腰と膝をまっすぐに伸ばします。肩の力を抜き、おなかに軽く力を入れて引っ込め、お尻の筋肉を軽く引き締めるように。背骨を反らし過ぎないように注意する。歩く時も胸を張って背筋を伸ばし、膝をピンと伸ばしてかかとから着地し、つま先で地面を蹴って歩きましょう。

○ 座る:椅子の高さは腰、膝、足首が90°になるくらいか、または膝が腰より少し上になるような低めの椅子で、背もたれも90°に近いものを。背もたれと背中に隙間があかないように深く腰掛けます。パソコンなどを使っていると長時間同じ姿勢を続けがちなので時々足を交互に組んで股関節を曲げ、筋肉の緊張を和らげましょう。また45分以上作業を続けず、こまめに席を立って腰を伸ばしたり、軽く体操するようにしましょう。
 
(2) 日常の何気ない動作が、腰に負担をかけ腰痛の原因になります。
○ 物を持ち上げる:中腰や前かがみのまま重いものを持ち上げると腰に負担がかかります。
 足を開き、膝を曲げて腰を落とし、からだを荷物に近づけてから膝を使って持ち上げます。幼い子どもを抱き上げたり、老人や病人の介護もこの方法で行います。

○ 荷物を持つ:重い荷物を持ち歩く場合は、からだの中心線に近いところで左右交互に持つようにします。また、からだの片方だけに重みがかかるショルダーバッグや手に持つバッグよりリュックサックを使うようにします。からだにぴったり近づけて持つほうが背中や腰への負担が軽くなります。

○ 掃除機をかける:掃除機を中腰でかけると腰痛の原因に。かける方向に正面を向き、右足なら右足をしっかり踏み込んでかけます。掃除機を持った手はなるべくからだに引きつけ、柄を長く持って腰をかがめないように。テーブルの下などは、膝をついてかけます。

○ 車の運転:なるべくシートを倒さず、胸をハンドルの近くに持っていき膝関節と股関節がほぼ直角になるような姿勢をとります。シートを倒して背中の上だけ寄りかかり、足を伸ばして運転する姿勢は背中や腰に大きな負担をかけます。長時間運転する場合は腰の後ろにクッションを入れると楽。

○ 寝る:柔らかい布団やベッドで寝ると、腰が沈み込み、腰に負担がかかるので、少し硬めの布団やベッドを選びます。腰痛のある人はわき腹を下にして寝る側臥位がよいでしょう。仰向けに寝る場合は膝の下に枕やクッションを入れて腰や膝が曲がるようにして寝ると楽です。うつ伏せは腰椎に負担がかかるので避けましょう。
 
(3)食生活を見直す
   肥満は、腰痛の大敵です。カルシウムやたんぱく質をしっかりとる栄養バランスの良い食事で骨や筋肉を丈夫にし、腰痛を防ぎましょう。
 
(4)運動不足は腰痛の原因となります。定期的に運動して腰や背中の筋肉の緊張を取り除き、腹筋や背筋を鍛えて腰痛を予防しましょう。
  ● 腰痛予防体操
  ● ウォーキング   一番手軽なのがウォーキングです。通勤中や仕事中にもこまめに歩いたりからだを動かしましょう。
  ● プール
  腰痛に最も効果的な運動は水泳です。水中では浮力が働くため、腰痛を持っている人でも腰にあまり重力をかけずに運動し、筋肉の収縮を和らげたり、筋力をつけることができます。泳げない人や高齢者は水中歩行だけでも効果があります。

腰痛予防体操
それぞれの体操を10回程度繰り返しましょう。
 
<おしりとおなかの筋肉の強化>
(1) 膝を立てて仰向けに寝る。
(2) 肛門をすぼめるようにおしりの筋肉を緊張させて、おなかを引っ込めながら骨盤をしゃくるように回転させる。
 
<腹筋を鍛える1>
(1) 両腕を前で組み、膝を立てて仰向けに寝る。
(2) 上体をやや起こし、そのまま5秒間ほど静止する。

<腹筋を鍛える2>(腰痛のある人は行わないで)
(1) 仰向けに寝て膝を立てて両手を上げる。
(2) 勢いをつけて起きあがり、足首を持つ。
 
<背筋をストレッチする1>
(1) 仰向けに寝る。
(2) 膝を抱え、胸に押し当てる。胸が圧迫されて苦しい場合は膝を開いてからだの脇に押し当ててもよい。
 
<背筋をストレッチする2>(坐骨神経痛の人は行わないで)
(1) 足を伸ばして座る。
(2) 背中を丸めないようにからだを前に倒す。
 
<背筋を鍛える1>(腰痛のない人)
(1) ベッドからからだを乗り出し、うつ伏せに寝る。
(2) 息を吸い込みながら静かに上体を起こす。
(3) 息を吐きながら元の姿勢に戻す。
 
<背筋を鍛える2>(腰痛のある人)
(1) ベッドから乗り出さずに行う。
(2) 少し肩を上げるだけでよい。(無理に上体をを起こさないこと)