思い出植樹

緑の松原を歩いてみましたか。白い小さな波と戯れましたか

広く青い海原をキャンパスにして白い砂浜にあなたの思い出を残しませんか

海を背にして振り返ると深緑の松原が静かにうねりながらそこにある

松原は白い砂のエプロンを広げて太平洋を抱っこして,

黙ったままそこにある。訪れる人の想いを静かに包み,去っていく人に

ざわめきの挨拶を送りながら。過ぎ去った時の流れを昨日のことのように受け止め,

四季時季の詩を波音に織り交ぜて歌い,

松風に乗せて梢をふるわせる。一日の喧騒が終わりを告げ,暮色の中で松林は

陰影を白い砂浜に落として佇みを見せ,月明かりの下で海辺が

白い波と子供のように戯れ始める頃,松林は眠りにつく。暗い水平線の彼方に

夜釣り船の火影がひとつ,又ひとつと見える頃砂浜に

闇のとばりが下りる

大方町の入野の浜に小さな松苗を一本植えてあなたの想い出を託してみませんか

植えた松苗のことをあなたが忘れていても,

松苗は緑の葉を青空に広げてあなたのことを憶えています

人が訪れて人が去って行く時,あなたへの便りを風のように託しています

あなたが何処かの街で悲しいとき,嬉しいとき,独りで来てみませんか,

大方町の入野の浜へ。小さな松苗を植えたあの時の思い出が

静かにあなたを包んでくれるはずです。

想い出植樹より