魅 館 果 汁
<99年12月中旬>
12月20日(月)
今年初の……。
今朝、起きると少し外が暗い。
雨でも降ってるのかと思って布団を出ようとする。
が、ぶるるっ。
やけに寒い。
風邪はほぼおさまったはずなのに、と思いつつ再び布団にくるまる。
くそっ、今日はギリギリまで寝といてやろ。
そう思ったのが悪かった。
さあ、と立ち上がって外を見ると、なんじゃこりゃあ。
初雪である。
しかも、見事に白く街を覆い尽くした積雪は8cm(目測)。
車はすっぽりと雪に包まれ、発掘するのが大変。
エンジンもすっかり冷え切り、暖気する時間もいる。
道路はもちろん絨毯のように敷き詰められ、その上をそろそろと人や自転車や車が進んでいる。
間違いなく遅刻だ。
でも、今日は定期試験中で監督もないし、まあちょっとくらい大丈夫。
そういえば昨日の天気予報で、山間部で雪になるかもしれないといっていた。
この街は南北に狭くて、東西を走る国道を越えると急に山深くなる。
天気も国道より山寄りと海寄りで結構違うのだ。
だから私が住んでいる海寄りのいわゆる平野部では雪といっても知れてると思っていた。
ところが、この積雪である。
雪にもかかわらず、試験は予定通り行われたようだ。
寒いのでほとんど部屋も出ずに仕事をしていると、昼前になってばたばたと2人の学生が入ってきた。
「ああ、冷たい冷たい」
「ストーブないん?」
「エアコンあるから、最近は出してないよ」
「まあ、ええわ。
この部屋あったかいし」
「何してんねん、裸足になって。
靴下べちゃべちゃやん」
「数学教えてもらおか思てたんやけどね」
「明日、試験か?」
「そうそう」
「それで、なんで裸足やねん」
「濡れてもたからやん」
「そんなもん、見たらわかるわ。
なんでそないに濡れてんの?
雪ん中であばれたんか」
「雪だるまつくったんよ」
「もう潰したけどね」
「見たかった?」
「……お前ら、平和やなあ。
試験中やのに」
結局、2人はえっさえっさとコンビニ袋で素足を包み、濡れた靴下をその上に履いて、勉強もせずに帰っていった。
そうかと思えば同僚は、試験監督に向かう道々できゃあきゃあ騒いでいる女子学生に雪玉をぶつけられたという。
お前ら、今から試験ちゃうんか。
ある意味、健全な子供たちである。
でも、こんなんでええのんか、と疑問が頭を過ぎるのも事実であった。
去年のインターネットで選ぶ全日本小説大賞SF・ファンタジー部門国内1位の『ブギーポップは笑わない』(上遠野浩平)を読了した。
なかなかいい感じである。
続編も次々出ているようだし、ハマるかも。
さて、今年もインターネットで選ぶ日本ミステリー大賞の企画が進んでいる。
今回は再びミステリに絞ったそうな。
投票は2月。
気長に待とう。
12月19日(日)
この冬一番の冷え込みで、悲しいことにまた風邪。
昨日、『人獣細工』(小林泰三)と『スローカーブをもう一球』(山際淳司)を読了。
なんて似合わない2冊を併読していたんだろうか。
後者は某MLの読書会課題本である。
ノンフィクションはほとんど読まなくて、雑誌に掲載されているエッセイみたいなのを読むことがあるくらい。
エッセイとノンフィクションは違う?
まあ、ええやんか。
とにかくあまり読まないわけだ。
この本にはあの有名な『江夏の21球』が収められていた。
79年の日本シリーズ、3勝3敗で迎えた近鉄対広島の第7戦、9回裏に江夏が投げた21球を通して、この場面に凝縮された選手や監督の心の動きを克明に追っている。
特に私の心を打ったのは、ピンチに追い込まれた江夏がブルペンに走る救援投手の姿を見て《なにしとんかい!》とつぶやき、それに呼応するように1塁手の衣笠が《オレもお前と同じ気持ちだ》と声を掛けたシーンである。
『八月のカクテル光線』では同じ79年の夏の高校野球三回戦、延長18回に及んだ箕島対星陵の死闘を描いている。
この試合をTVで見ていた私にとっては熱い感動の出来事であったが、今、冷徹な視線で別の角度から描かれたこの物語を読むとどこからか嘆息が聞こえてきそうなしみじみした気持ちになる。
甲子園など夢と思われた進学校の快進撃を描いた『スローカーブをもう一球』では、原動力となった秀才投手の冷静さも面白いが、監督にこそ心惹かれる。
飄々としているようでありつつ、その裏側に采配やらなんやらで悩んでいる姿が見え隠れして興味深い。
また『ポール・ヴォルター』では、むなしさ、という言葉が心を刺す。
なぜ高く跳ばなければならないのか。
そこまで記録を伸ばせば自信があふれてくると思っていたのに、何も変わらない。
ここにはスポーツに対する幻想と絶望が共存している。
その他、オリンピックを目指したボートのシングル・スカルの選手、希望に燃えてプロに入りながらバッティング・ピッチャーに甘んじる男、ハングリーとは対極にあるプロボクサー、優秀なセールスマンの顔を併せ持つスカッシュの全日本チャンピオン。
彼らをを通してスポーツに取りつかれた男たちの姿を浮かび上がらせているのだ。
やや作者の主観が入りすぎているきらいはあるが、ノンフィクションもいいものだと思わせる作品集である。
12月17日(金)
身近なY2K?
今年も終わりに近づいてきた。
いつもの年末とは違って2000年問題の関係で何かと心配がある。
友人の話では、ある大学では年末年始の5日間くらい停電にしてしまうという。
何かあった時の対応に人をつけておくのがもったいないからなのだろうか。
果たしてうちはどうなのだろう。
大丈夫なんだろうか。
などと思っていた今日、電話が鳴った。
「寮ですけど、23日に宿直にあたってますよね」
「ええ、そうですよ」
「実は人事の方から2000年問題の関係で、間違いなく宿直されるかどうか確認してくれと言われてるんですけど、それでいいですね」
「は?
2000年問題?
何のことですか」
「いや、詳しいことはわからないんですけど、宿直されるかどうかだけ……」
「宿直はしますけど、何かあるんですか」
「さあ?
とりあえず、寮としては確認しましたので」
うーん、何のことだろう?
全く意味不明である。
同僚との会話。
「こないだ小渕総理が伊方原発に来て、コンピュータの年号を2000年の1月1日にして制御系に問題ないって見せてたやん。
あれと同じようにうちでもやるんちゃうの」
「なんでそんなこと夜にするの?
宿直中やで。
しかも、わざわざ祝日の夜に」
「そしたら、2000年問題が1月1日じゃなくて何日か早目に起こったとしたときの対策要員の確認とちゃうか」
「そんなん調べて、何の役に立つん?」
「役に立たん頼りない人が泊まってないかどうかチェックするんやんか」
「頼りないと思たら、誰かと交代してくださいってその人に頼むんか。
そんなことできんやん」
「でも、喜んで代わると思うで」
「おいおい」
ちゃんと人事に問い合わせてみると、2000年問題でコンピュータが間違って給与計算してしまうかもしれないから、早めに今月分を計算するためだという。
宿直費を給与に足さないといけないから確認したのだという。
それならそれでもうちょっと言い方があるだろう。
人騒がせな。
12月16日(木)
幼稚園で、餅つき大会だあ!
同僚の子供が通う幼稚園で餅つきの会が催されるという。
去年はつき手が4人ほどしかいなくて大変だったので、今年は助っ人を募集しているという。
確かに年末の平日、普通のサラリーマンに出てきてくれとは言いにくいだろう。
うちは今日から定期試験だが、今日は試験監督なども当たっていない。
ということで声が掛かったわけだ。
人の役に立つことをするのは公務員の本意でもあるし、たまには小さな子供の相手をするのもいいか、と思って一肌脱ぐことにした。
まあ、駄目押しは若い独身の保母さんもいるよ、という誘惑の声だったのだが。
同僚を始め園児の保護者たちは準備があるので朝9時頃に出掛けていったが、餅つき専門の助っ人である私は10時に園にお邪魔することに。
園庭ではすでに石臼が用意され、ちょうどつき始めたところだった。
この日は去年と違い、男手が私を含めて10人ほど集まった。
これなら休み休みできる、と思ってぐるりと眺め回す。
言うまでもなく、若い保母さんを物色しているのだ。
いたいた、確かにいました。
でもみんな餅つきの準備と子供たちの相手で忙しくて、とても声を掛ける雰囲気ではない。
さらにあとで同僚に聞くと、あのかわいらしい保母さんたちはすでに既婚。
独身はというと、元気が取り柄の方ばかり。
くそっ、策略にはまったか。
ただ、子供たちがエネルギー全開で走り回り、「並んで」の一声で列を作り、危なっかしくも餅をつく姿をみているだけで、リフレッシュできる。
とはいうものの、こちらはつき手の助っ人で来たわけだから休んでいるわけにはいかず、ぺったんぺったん、杵を振るう。
全部で臼にして15ほどの餅をつく。
初めは軽快だが、何度かやっているうちにまず左手に薄いマメができかける。
右手の握力が弱くなる。
なんとか最後までつききったけれど、いかんなあ。
明日になるときっと右腕あたりに鈍痛が残るに違いない。
つきあがって餅は、雑煮、餡子、のり醤油、きな粉、大根おろしと、このあたりまでは普通。
幼稚園ならでは、イチゴ入りやチョコレート入り。
いけるのかどうか、納豆まぶしやごま塩。
なかなかバラエティに富んでいた。
サツマイモを餅米と一緒に蒸したものをついたのだが、これはつぶれたイモに紛れて米がなかなかつききれない。
なんとかつきあがったイモ餅は、一見ヤマイモかと思わせる粘り。
これって丸められるのか。
私はやっぱり雑煮が一番安心できる。
保母さんとの交流はなかったものの、最後は園児に「今日は餅つきをてつだってもらって、ありがとうございました」とたどたどしいお礼を言ってもらって、ものすごく新鮮な気持ちで幼稚園をあとにした。
こうして午前中は有給で楽しく過ごし、午後は仕事。
そして夜は学生指導担当の教官が集まって忘年会というか慰労会。
いろいろと今年を振り返り、来年の課題を語り合う。
もちろん愚痴も出るし、悩みも多い。
高校なら教育委員会の指導があるし、大学なら学生の自治にまかせるということもある。
しかし、高専というその中間的な学校では立場が中途半端で指導に一貫性がない。
高校のように厳しく校則で縛るわけではなく、大学のように自己責任に委ねるわけでもない。
あるときは高校的、あるときは大学的に都合よくなのか悪くなのか、コウモリのように立場が変わるので、指導する側はやりにくくて仕方がない。
どちらかに寄ればいいのだが、現実がそれについてこない。
なかなか難しい位置にいるのだ。
来年も学生指導の中心メンバーに入ったのでいまから憂鬱ではあるものの、今年の経験を生かしてどこかで役立てたい気持ちもある。
果たしてどうなるのかはわからないが、そんな気持ちを新たにした慰労会となった。
12月14日(火)
昨日は風邪ひいたのでサボったけど、今日は少し回復。
明後日から定期試験が始まるので、昨日あたりから試験前の勉強を教えて欲しいという学生が放課後に部屋を訪れるようになった。
昨日は1年生と4年生、5年生、今日は1年生、2年生、5年生。
今、授業を持っているのは4年生だけなのにどういうこと?
でもまあ、頼りにしてくれるというのはありがたくも嬉しいことである。
専門じゃない数学や物理を教えてるから本当に役に立ってるかどうか怪しいけどね。
でも、今日は教職員対抗のボーリング大会があったので5時半に抜けさせてもらった。
帰ってくるのが8時頃になるけど、それでよかったら勉強しながら待ってな、と言い捨てて……。
そのボーリングは1ゲーム目が110とからっきしダメだったが、2ゲーム目と3ゲーム目はどちらも154とまあまあ。
おかげで約60人が参加した大会で20位のキリ番賞をゲット。
中身は味付け海苔セット。
朝ご飯の友ができたということだ。
帰ってくるとまだ2人が数学の勉強をしながら待っていた。
ところが、早速された質問は生物の遺伝子について。
むう、私はスーパーマンじゃないぞ、といいつつ知っている範囲で教えてあげる。
これから1週間ほどはこんな毎日が続くんだろうな。
ニュースステーションで、道路交通法改正に伴う運転中の携帯電話使用禁止の実施により、交通事故が激減したと報じていた。
つい最近知ったのだが、携帯使用禁止というのは事故を起こした場合にのみ適用されるそうだ。
いや、みなさんよくご存知なのかもしれないが携帯ユーザでない私には基本的に関係ない話だったので。
それはともかく、運転中に携帯電話をかけていてための不注意による事故が、改正前は月間250件程度だったのが、11月は60件ほどに減少したというのだ。
この改正では手に携帯を持って電話していたときに適用されるからというので、ハンズフリーで電話できる器具が大売れしたのは記憶に新しいところである。
しかし、事故の原因としては片手運転になるということよりも、耳からの情報に気をとられて注意力散漫になるところにあるといわれていた。
とすると、ハンズフリーの携帯にしてもあまり変わらないことになるんじゃないかと思う。
このあたりがこの法律の中途半端なところだ。
警察庁ではとにかく事故は減ったのだから効果があったと言いたいのだろうが、ハンズフリーで電話していた場合の事故はどのくらいだとか、もう少し厳密な話をしてもらいたい。
某ML仲間のホームページで教えてもらった恋愛能力指数テストというのを試してみた。
結論からいうと、私は恋愛が苦手なうたれ弱いタイプだそうで、献身的タイプが似合っているという。
自分の恋愛感情に無頓着で、相手の気持ちを汲み取ることができずに、恋愛を継続し深めていく能力に欠けているとか。
うーむ、当たっているぞ。
困ったものだ。
誰か、献身的な女の方、こんな私を掬って、いやいや、救ってください。
12月12日(日)
ちょっと秘密のいいことがあった日。
今日は駅伝の引率。
隣市で開催された耐寒駅伝大会に我が陸上部がエントリーしたのである。
5km 3区間、3km 2区間の計21kmを5人で走るレースの一般男子の部でA、Bの2チームが参加する。
1月末か2月初めに行われる予定の四国高専駅伝を見据えた前哨戦である。
今回の目的は5km区間を誰がどれだけのタイムで走れるかにおく。
うちはずば抜けて早い選手がいないので、平均的に5kmを18分台で走れる選手をできるだけ多く揃えたい。
結果からいうと、17分台1人、18分台2人、19分台2人、20分台1人。
全体としてやや不本意な結果である。
あと1ヶ月半のうちに修正できるか?
頑張ってほしいところである。
駅伝といえば、今日は全日本実業団女子駅伝が行われた。
TV中継は見れなかったが沖電気宮崎が勝ったらしい。
川上優子や斉藤祐子の活躍によるものだったという。
その他、高橋尚子、山口衛里、川島亜希子ら注目選手が目白押しだっただけに見たかった。
『ブラディ・ローズ』(今邑 彩)読了。
感想はなんといっていいか難しいところもあるが、とりあえず魅館箱を参照されたい。
さて結局、秘密のいいことってなんだったんでしょう?
秘密だからここには書かない。
いいことといっていいのか、どうなのか、正直なところはちょっと怪しい気もするのだけれど。
12月11日(土)
2000年は世紀末なのだけど。
年末が近づき、何かと今年一年を総括するイベントが増えていく。
先日の流行語大賞や何とか10大ニュースというやつだ。
その一つとして一年の世相を漢字一文字で表わすというのがある。
日本漢字能力検定協会が公募して選ぶ「今年の漢字」というのがそれだ。
今年の1位は、世紀末をイメージさせる「末」になったらしい。
2位以下にも「乱」、「核」、「崩」と良い意味がない。
神奈川県警不祥事、東海村臨界事故、新幹線安全神話崩壊など、暗い事件が相次いだところが如実に表れている。
そういえば去年は長野オリンピックやサッカーW杯出場など明るいニュースもあったが、今年はちょっと思い当たらない。
とはいうものの、去年の1位も和歌山カレー事件やアジ化ナトリウム事件を連想させる「毒」だった。
95年は阪神大震災の「震」、96年はO157の「食」、97年は山一證券倒産の「倒」となるほど、最近の世相は暗いのである。
今年の5位に「癒」が入っているところも病める日本を暗示しているように感じる。
しかしここは「末」を末広がりと解釈したり、「癒」を回復の意味に捉えて、2000年に向けて明るい兆しを信じたいところである。
さて、世紀末とはいうものの今年はまだ1999年、本当の世紀末は来年2000年である。
2000年代最初の年というイメージと20世紀最後の年というイメージ。
両方を内包した来年は一体どんな年になるのか。
鬼に笑われてもいいからいい年になることを願いたい。
今年の総括といえばミステリベストテンというのも当然ある。
「ダ・ヴィンチ」のミステリ・ホラー・SF部門では『永遠の仔』(天童荒太)が第1位。
愛媛県出身の作家で作品も愛媛の病院を舞台にしているので気になる存在だが、ハードカバーなので読んでいない。
2位と3位は『百鬼夜行 ― 陰』(京極夏彦)、『バトル・ロワイヤル』(高見広春)の新書版が占めた。
どちらも読んでいるが、確かによかった。
個人的にベストテンを挙げるとすれば……むずかしなあ。
そういうのは苦手なのである。
でも上の2冊に加えて『百器徒然袋 ― 雨』(京極夏彦)、『黄泉津比良坂、暗夜行路』(藤木 稟)、『ハサミ男』(殊能将之)は入れておきたい。
あれっ、もう半分選んでもたやん。
角川ホラー文庫の新刊が出たというのでいそいそと買いに行く。
『ループ』が文庫落ちする前に『バースデイ』(鈴木光司)が文庫になった。
今年の2月に単行本として刊行されたばかりだというのに、映画化に合わせてということのようだ。
『ループ』より先に読んでも大丈夫なのかなあ。
他に『人獣細工』(小林泰三)と『quarter mo@n』(中井拓志)も買う。
二人ともホラー大賞出身の作家である。
また、『妖奇切断譜』(貫井徳郎)、『夜宴』(愛川 晶)、『種の起源』(北上秋彦)、そして某ML読書会課題図書『スローカーブをもう一球』(山際淳司)もゲット。