98年8月の本のほらあな


「奴らは渇いている」上・下8月6日以前

著者:ロバート・R・マキャモン 訳者:田中一江、出版社:扶桑社ミステリー文庫

これは面白い!マキャモンの第四作目の事実上の出世作。
目次を見るとウィリアム・アイリッシュの「幻の女」をちょっと思い出す。
今まで読んだもっとも面白かった吸血鬼物の長編の一つです。(ってあまり読んでないけど(^^;)
舞台はロサンジェルス。殺人、墓荒らしなど幾つかの事件が複雑に絡まり、やがてすべて吸血鬼の
しわざだということに気づく。そのころにはすでにロサンジェルスは
吸血鬼達の狂気の街と化しつつあった。それを阻止しようとする人々の運命やいかに。。。
粗削りな感じはしましたが、かなりの力作でぼくは気に入りました。
読んでいるとビジュアル的で映像化されていても不思議じゃないような気がしたけど
これって映画化されてるのかなあ。されてないならしてほしい!

「ザ・キープ」上・下8月6日以前

著者:F・P・ウィルソン 訳者:広瀬順弘、出版社:扶桑社ミステリー文庫

ふたたび吸血鬼物です。これは「奴らは渇いている」よりさらに面白かった!
ときは第2時大戦下の1941年、ルーマニアの地方にある城塞(キープ)をドイツ軍が
砦にしようととしたところからはじまる。その城塞は昔から建っているにもかかわらず奇妙に新しかった。
やがて一人の兵の欲望から魔物が解き放たれ、城塞は殺戮の場とかしていく。。。
「奴らは渇いている」よりも完成された感じのする吸血鬼ものでした。
今までに読んだ吸血鬼物で(と言っても数は少ないが)もっとも斬新でした。ウィルソンの出世作で
ザ・ナイトワールドの6作品の最初の作品でもあります。これはもう読むしかないでしょう。
しばらくウィルソンの世界にはまりそうです。

「ピピネラ」8月6日

著者:松尾由美、出版社:講談社

この人の作品は何冊か読んだが、ユーモア小説と言われるものですら
社会の矛盾に陥った人が(特に女性が)苦しくて悲鳴を上げているように感じるのはぼくだけだろうか?
これはある日突然取りたてて理由も考えられないのに失踪してしまった夫を捜しにいくと言うお話です。
読みすすむうちに社会的あるいは人間的な矛盾を問題提起してます。
主人公のような状況の女性は少なくないと思われるし、突然の失踪もめずらしくはありません。
(現に身近で一人理由は違うが失踪した人物がいた。見つかったが。。。)
男社会というのは女性には窮屈なものなのでしょうか?
どちらにしても現代社会というのはさまざまな異質なことに対して
現実問題としてはいまだあまり寛大ではないですね。

「光の帝国(常野物語)」8月9日

著者:恩田陸、出版社:集英社

この人の作品を読むのは「三月は深き紅の淵を」「球形の季節」に続いて三冊目ですが
一番のお気に入りといってしまいましょう。不思議な力を持つ常野一族を描いた十編の短編の連作です。
美しく悲しく不思議な物語は珠玉というにふさわしい。常野(とこの)とは権力を持たず
群れず、常に在野の存在であれ、という意味だそうな。今の混沌とした世の中において
飄々と生きていく姿勢はなぜかあこがれます。ぼくが読んだ彼女の他の作品に比べてすっきりして
わかりやすく結末も一番よかったです。またこの常野一族のシリーズまた書いてほしいもんです。

「マンハッタンの戦慄」上・下8月18日

著者:F・P・ウィルソン、訳者:大瀧啓裕、出版社:サンケイ文庫

モンスター物。マンハッタンでいろんな揉め事を解決する始末屋ジャック。
彼の元の別れた恋人ジーアからの電話が。彼女の義理のおばが失踪したというのだ。
同じ頃インド人の国連関係者クサムから家宝のネックレスを探すよう依頼を受ける。
ネックレスを見つけたジャックの身の回りに不思議な出来事が次々と起こる。。。
幾つかの物語が絡み合いながら、話はスピーディに展開していきます。
ぼく個人は「ザ・キープ」のほうが好きですが、超人的主人公ジャックも捨て難い。
こういう超人的なキャラクターはとても魅力的です。この作品もビジュアル的で
映像化されてもおかしくない気がする。ナイトワールドの他の作品が早く読みたい。

「カブキの日」8月30日

著者:小林恭二、出版社:講談社

これは面白い!お勧めです。かなりの名作だと言ってしまうのは言い過ぎでしょうか?
世界座にカブキを見るために両親と来た立作者の河井世之介の孫娘、蕪。華やかなカブキの世界の
舞台裏ではカブキ界に君臨する水木あやめと改革派の坂東京右衛門らの確執が。。。それと平行して
蕪は塩野清十郎の勧めにより若衆の月彦の案内の元、世界座の中を案内される。これらの出来事は果たして
どのように絡み合うのか。。。カブキに無知なこのぼくにもかなり楽しめました。幻想的なカブキの舞台裏を
垣間見たような気がします。特に気に入ったのはちょっと幻想的な世界座の三階を月彦、蕪の二人が
冒険するところと「山三郎浮世別離」の三幕目。ここには書けないけど凄いことになってます(笑)。

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