98年9月の本のほらあな


「六番目の小夜子」9月1日

著者:恩田陸、出版社:新潮社

再版された恩田陸のデビュー作品。最初からこんな不思議なの書いてたんだ(無知)。
どこの高校にもありがちな伝説を題材に描かれている。3年に一度受け継がれ伝えられていく小夜子の名。
最初の小夜子からちょうど六番目の小夜子が登場する年、さまざまの不可思議な事件が起こる。
その渦中に否応なく巻き込まれていく4人の少年少女を中心に物語は展開していく。。。清涼で
謎めいておりホラー色が強いが幻想的である。このなんともいえない不思議さがたまらなく魅力的です。
高校生活ははるかかなたの過去であるけどちょっと思い出しました。。。

「幻色江戸ごよみ」9月9日

著者:宮部みゆき、出版社:新潮文庫

宮部みゆきの江戸物。エンターテインメントな彼女の特色がいかんなく発揮されている十二の短編。
江戸の季節折々が哀歓を交えながら描かれています。怪異な話がまた絶品です。十二編の話は
一つ一つが丹念に書き上げられ、珠玉の短編集として仕上がっているのはさすがです。それぞれの
話の主人公は下町に生きる市井の人々。さまざまな境遇にあって生きていく姿は悲しくもあり
楽しくもあり、優れた人情ばなしとしても上出来といえましょう。宮部ファンでなくとも
切なく心温まる内容はお勧めの逸品です。やっぱりいいなあ、こういう江戸人情話。。。ジーンとする。

「塗仏の宴」宴の始末9月20日

著者:京極夏彦、出版社:講談社ノベルズ

「塗仏の宴」宴の支度の続編。当然のことながら宴の支度の方を読んでなければ意味不明(笑)。
物語は複雑で一言で説明するのは難しいので割愛するが、相変わらず面白いです。京極氏の作品の
面白さはその複雑に絡み合ったストーリー展開もさる事ながら、キャラクターの面白さ、その博識
を縦横無尽に書き連ねているところなど行く通りもの見方があると思います。そのすべてが楽しめる
エンターテインメント作品といっていいでしょう。でもちょっと引っかかるのは事件としては一話完結
ものなんですが、このシリーズの最初から(「姑獲鳥の夏」から)読んでないとちょっとわかりにくい
ところがあるかも・・・ということかな?京極堂シリーズ全体が一つの作品なんです。ぼくはTVドラマ
のXファイルシリーズをちょっと思い出してしまいました。そういう意味ではあれも似ている。。。

「多重人格探偵サイコ」19月21日

著者:大塚英志、出版社:角川スニーカー文庫

小説版のサイコシリーズ。コミックでは書かれていない投獄中の刑事小林洋介を主人公として描いて
います。恋人を殺された小林洋介は犯人を射殺してしまう。そのとき洋介は別の人格に支配されていた。
さらに裁判の時には雨宮一彦という人格に。。。ここまではコミックと同じだけど、この後に刑務所
に入った雨宮一彦は所内での賭けに関わる事件にであう。コミックも面白かったけど小説もなかなかです。
サイコという題名に恥じない?かなり強烈な描写も出てきます。社会が狂ってるのか、いや謎の組織
の陰謀か。ある意味ではちょうど前に読んだ「塗仏・・・宴の始末」にダブってしまいました。

「多重人格探偵サイコ」29月21日

著者:大塚英志、出版社:角川スニーカー文庫

小説版のサイコシリーズ。これはたしか?コミックにもあった話です。多重人格の雨宮和彦に興味を持ち
彼を患者とした精神科医の伊園磨知。鑑定のため刑務所から医療刑務所へと護送されるとき二人は何者か
に拉致されてしまう。いっぽう巷には不法FM局より謎の海賊番組が流れていた。。。そして事件は次々
と起こる。相変わらずコミックに負けないくらいエグイ。人々が簡単に殺人を犯し、自殺していく。この
キーワードともいうべきルーシー・モノストーンの曲、一度聞いてみたい。

「うつろ舟」29月24日

著者:澁澤龍彦、出版社:福武文庫

8つの妖しい物語の短編集。どれもありきたりの怪談話でなく、捻りがきいて謎めいた雰囲気を
感じさせる。表題作の「うつろ舟」は兎園小説の中の有名な話を題材に書かれた小説。江戸の
末頃常陸の国はらどまりの浜(兎園小説でははらやどりという浜)にお釜のような乗り物に乗って
流れ着いた金髪碧眼の美女の話である。エイリアン説などという奇説もある有名な話である。
題材だけでも興味を引くのに、さらに澁澤氏、筆を加えて幻想的な作品に仕上げている。。。
他の話ももしかしたらヒントとなった話があるかも知れないが、ぼくにはわからない。。。
とにかくぼくの大好きな短編集の一つにくわえてもいいと思った。こういう妖しげなのは例外なく
好きなのだった。。。つまりぼくは物好きなのだ(笑)。

「霊怪真話」9月25日

著者:岡崎建文、出版社:八幡書店

奇書の一つと言っていいでしょう。明治初頭から昭和初期にかけての怪談・奇談を集めた本。
作者の岡崎建文は新聞記者であり、大本教の関係者でもある。この本が発行された昭和11年は
奇しくも第二次大本事件勃発直後。大本教の聖師と呼ばれた出口王仁三郎が逮捕されたにも
関わらず出口氏に関するエピソードも入っている。話は狐狸に化かされた話やら祟り、怪現象
など多岐にわたるが、聞いたことのない話もあって読み物としても優れものです。当時流行の
心霊科学などに影響を受けているのがよくわかる作品です。作者は大本教の信者らしくかなり
宗教的記述もあって変な解釈を付けているのが少し気になりますが、全部実話であり(少なくとも
作者はそう信じてる)面白く興味深い話も盛りだくさんでこの手の話が好きな読者を満喫させてくれます。

「触手」9月29日

著者:F・P・ウィルソン、訳者:猪俣美江子、出版社:早川文庫

やっぱりウィルソンは好みでした。誠実な医師アランにある日浮浪者から渡された不思議な力。
アランはその日から触れるだけでいかなる病も治してしまう奇跡の手を持つことになる。
最初は彼自身、信じられなかったが、それは真実だった。やがて彼の評判は世間へ知れ渡る。
しかしその力を持つことによりさまざまな弊害が彼を襲う。。。彼のように誠実な人間は世間に
いったいどれくらいいるだろう。ぼく自身にあんな能力があったらどうするだろう、と考えてしまった。
ラストはある意味では悲しかったが、力がそれを持つにふさわしい人にのみ伝えられることを考えると
どこかに希望の光が見えるような気がしました。いろんな超自然的題材を用いた作品を読むけど
どういうわけか、いかに不思議な話といえども現実を越えることはないのではないかと思ってしまう。

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