98年11月の本のほらあな


「犬張子の謎」11月15日

著者:平岩弓枝、出版社:文春文庫

ご存知「御宿かわせみ」シリーズの21冊目の文庫。このシリーズは江戸を描いた他の作品に
負けず劣らず気に入っている。今回ももちろん神林東吾とるいを中心にいつものメンバーが活
躍する七編の短編が収められている出来のよい江戸情緒豊かな人情捕物帳に仕上ってます。
表題作の「犬張子の謎」はおもちゃ職人の孫が大店の跡目争いに巻き込まれる話です。その他
の作品も面白かった。まだ読んでない人はシリーズの1作目から読むことを勧めます。登場人
物が回を追う毎に増えているのでそのほうがより楽しめます。まだ文庫化されてない作品もあ
るし、続編もあると思われる先が楽しみなシリーズの一つです。これから読む人は幸せかも。

「魔法の猫」11月15日

編者:J・ダン&G・ドゾワ、訳者:深町真理子ほか、出版社:扶桑社ミステリー文庫

猫のアンソロジーです。作品はホラー、SF、ファンタジーなどに渡ります。シュールな作品
もありますが、メリハリがあって面白いアンソロジーに仕上ってます。多少SF色が濃いよう
な気がするのでSFが苦手な人には向かないかも。ぼくはスティーブン・キングの「魔性の猫」
とマンリー・ウェイド・ウェルマンの「魔女と猫」というのが気に入りましたが、他の作品も
一級の作家達によって書かれた珠玉の短編集です。猫好きの方にお勧めの一品。

「屍鬼」上・下11月24日

著者:小野不由美、出版社:新潮社

ふう。やっと読み終わりました。上下2巻、1200ページ余りはこのところあんまり本を読んでない
ぼくにはちょっと疲れた。特に上巻の前半、話がなかなか進まず読む速度の遅いこと(^^;。。。。
舞台は排他的で閉鎖的な外場(そとば)という土地。ここではいまだに土葬が行われている。ある日、
ここに洋館が建てられる。外からの入居者がやってくるのだ。ときを同じくして人が次々と死んでいく。
しかもその原因は不明である。暑い夏のことであり年寄りの多いところなので、最初は誰も疑問を抱か
ないのだが、死人の数はどんどん増えていく。果たしてその原因はなんなのか・・・・・・・・・・。
後半の2/3からあとは一気に読めました。あまり書けないのですが、緊迫感はそこそこですし、人々
が丹念に描き込まれてます。単なるホラーでもなく、人間の嫌なところもうまく表現されてました。ス
ティーブン・キングの「呪われた町」を読んだ人ならもちろんどういう内容かすぐ分かると思います。
力作ですが、あまり目新しさは感じませんでした。強いて言えば医学的描写が一番優れているのでは?

「Aサイズ殺人事件」11月29日

著者:阿刀田高、出版社:文春文庫

実を言うとこの人の作品は初めて読みました。短編の名手で有名らしいのですが、とりたてていう
ことはない可もなく不可もない作品でした。いわゆる安楽椅子探偵物です。連作短編集なんです。
しかもユーモアな作品になってはいます。刑事と坊主が碁盤を囲み、そこで刑事が事件を伝える。
坊主がそれを聞いて謎を解くというパターン。ぼくはいわゆるミステリマニアではないからかもし
れないけど、もう一つ面白くなかった。謎解き自体にはそれほど興味がないのです。この手の本は
キャラクターやあっと驚くストーリー展開に面白味があると思ってるんですが、どっちも秀逸とは
言い難いのだった。人に借りた本なのであんまりけなしたくはないんですが、嘘はつけない性格な
の。貸してくれた人ごめんなさい(^^;。あともっとも嫌いなのが、登場人物を記号で表わして
いることです。よほど面白いストーリー展開でもこういう形式の作品にはあんまり感心しないので
した。ま、阿刀田氏は短編のみ書く多作家なのできっとネタ切れなんでしょうけど。ちょっと出版
業界に対する不満も入ってたりする(^^;。作家たちにもっと名作を書く時間を与えてほしいと
思ってしまうのでした。時間があれば書けると言うものではないかもしれないけど。。。

「秘剣 花車」11月30日

著者:戸部新十郎、出版社:光文社文庫

やっぱり面白かった。題名からも分かる通りテーマはぼくの好きな剣豪物です。10編の短編集。
時代は戦国時代から幕末までだんだん時代が新しくなってくるというよく見る形式です。主人公は
高名な実在の武芸者。無駄な言葉が削り取られて淡々とした文体は時代小説にぴったりというべき
でしょう。切り合いということが人の生死に関わることであり、それが物語に奥行きを与えている
ように思われます。昔の武士は自分の生死が身近なことなので精神的な部分でより成長する必要に
せまられていたのではないでしょうか?今は多くの人が病死、あるいは老衰死である日本は幸せと
いうべきなのでしょうけど、精神的成長のほうは。。。補足ですが武道の「道」の意味は中国の老
子がいうところの「道(タオ)」というものに繋がる気がするのはぼくだけでしょうか。。。

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