98年12月の本のほらあな


「柳生秘帖」上・下12月2日

著者:志津三郎、出版社:光文社文庫

うーむ、これは。。。題名が好みだったので気まぐれに買ってみたけどちょっと失敗でした。
伝奇時代小説とでもいうべきでしょう。ストーリーは悪くないです。時代は徳川三代家光の時代。
有名な由井正雪の事件やら天草四郎の乱などに能楽師世阿弥を絡ませて面白げな作品に仕上げ
ようとしています。主人公は能楽師の道統を受け継ぐ金春七郎。ある日、東照宮から三池典太
(刀)が盗まれる。果たして誰が盗んだのか?密かに捜索する柳生一門。これに金春七郎も加
わり、物語は複雑に絡み合う。。。どうも著者の意見が押し付けがましく感じられ、それが終始
鼻についた。それに余りにも上面にとらわれているように感じました。もっと作品に深みがほ
しかった気がしないでもない。テーマは悪くないのに今一つ感情移入出来なかった。。。

「前田太平記」上・中・下12月3日

著者:戸部新十郎、出版社:光文社文庫

これは傑作といってしまいます。最も好きな作家の一人でもある戸部新十郎の作品。この人は以前
にも「前田利家」という作品を生み出していますが、その前田家を利家も含め別の角度から描いて
います。利家、利長、利光と加賀百万石の前田家の草創期を富田中条流の名人越後と呼ばれた前田
家の重臣にして剣の達人でもある富田越後守重政の目を通して描いています。ということはつまり
織田から豊臣、徳川に至る日本の支配の変遷についても描かれているということです。淡々とした
簡素な文体ながら物語に奥行きもあり、なぜか続きが読みたくなりました。(続きは今のところな
い)主人公が故郷のことでもあり、土地に対する思い入れも感じられます。続編が読みたい。。。
余談ですが、この戸部新十郎という名前、本名だそうです。さらにいうとこの人の一番好きな作品
は「服部半蔵」です。全十巻ですが、忍者物で最も好きな作品の一つなので未読の方はご一読を。

「ブラック・ローズ」12月7日

著者:ナンシー・A・コリンズ、訳者:乾遥子、出版社:早川文庫

おなじみのゾーニャ・ブルー物。3部作とは違う設定ですが、なかなか面白かったですー。
舞台は大都市の片隅にありながら地図にも載らぬ街、デッドタウン。そこは2人の吸血鬼の
支配する街だった。そこへ乗り込んだ吸血鬼を狩る美貌の女吸血鬼ソーニャ・ブルー。いか
にして彼らを餌食にするのか。。。テーブルトークRPG(TRPG)の設定を元に描かれ
ています。このゲーム、アメリカでは大人気らしいがいまだ日本には輸入されてないとか。
ゲームを元にしたせいなのか、新能力満載の新たな吸血鬼物として出来上がってますよ。

「密閉病室」12月18日

著者:F・P・ウィルソン、訳者:岩瀬孝雄、出版社:早川文庫

ふーっ。読み終わりました。面白かった。やっぱりウィルソンはわし好みですね。題名から見ても
分かる通りいわゆる医療サスペンスホラーです。アメリカで最高の医科大学イングラム。そこは医
学を目指すものにとって誰もがあこがれる大学だった。そこに入学したクイン・クリアリーとティ
ム・ブラウン。全寮制のそこは素晴らしかった。しかしなにかがおかしい。それはいったい何なの
か?いったいこの大学に何が起きているのか?その真相は。。。怖い(T_T)。さすがナイトワール
ドシリーズの作者です。サスペンスも利いてるしホラー度も満点。こんなこと現実に起きていたら
と思うとぞっとします。医療物って直接読んだのははじめてだけど出来がいいとなかなか面白い。
そう言えば「天使の囀り」や「屍鬼」なんかも医学的興味をひくものがあったし、専門用語はたい
てい理解してないけど不思議と物語をリアルにする威力があるような気がする。

「素顔の剣豪たち」12月19日

著者:小島英煕、出版社:日本経済新聞社

歴史的に著名な剣術の流派、新陰流、陰の流、タイ捨流、神道流、柳生流、中条流、一刀流、二天一流
についての文献について考察しながら、それぞれの流派の発祥の地を訪れる歴史紀行。剣術に興味のあ
る人、あるいは剣豪小説などの好きな人にはなかなか面白い歴史的考察であるといえます。時代はだい
たい戦国時代から江戸の初期にかけてです。このころ中世以降の剣術の源流ともいえる流派が数多くな
っています。それぞれの流派は小説などでおなじみですが、かなり事実は違っているようです。これも
剣豪たちの資料があまり残っていない上、学術的な研究者も少ないことや後世作られた資料が多いこと
などをあげています。しかし興味のない人には何のことやらわからないでしょう。専門書と言っていいかも。

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