99年4月の本のほらあな


「螢丸伝奇」4月1日

著者:えとう乱星、出版社:青樹社文庫

阿蘇に眠る神刀螢丸をめぐる徳川家と天皇家の争いを描いた時代伝記ロマン。沢庵和尚、柳生十兵衛、
荒木又右衛門、宮本武蔵、中国帰りの沢庵和尚の弟子の化龍・・・そうそうたるメンバーが登場するの
で買ってみたけどちょっと期待し過ぎたか?面白いのだけどどこがどうということもなくちょっと感情
移入できなかった。どことなく中途半端に感じたせいか?ちょっと描き方がたりないような・・・。化
龍が一応主人公のようだが、彼をもっと前面に押し出してほしかった気がした。題材は悪くないのに。

「妖かし語り」4月12日

著者:倉阪鬼一郎、出版社:出版芸術社

わし好みのオカルトホラー。一見、百物語形式に近い。ちょっと岡本綺堂の「青蛙堂鬼談」シリーズを
思い出した。内容はちょっと幻想的でシュールですらある。技巧的でもあるが、「赤い額縁」とは違い
この作品はその技巧が鼻についた。しかしそれでも怖い。夢に見たくらいだから・・・(日記参照)。
分かり難いけれど古典的でオーソドックスな怖さは充分堪能できると思います。全体の落ちよりも一つ
一つの話の方が気に入りました。やっぱり古典オカルトファンとか怪談好きにはたまらんと思うのだが?
「赤い額縁」と比べると怖いという点ではこっちの方が怖いけど、あの吸血鬼コンビが捨て難いです。

「昭和幻燈館」4月19日

著者:久世光彦、出版社:晶文社

妖しい。戦前戦中戦後から昭和の終わり頃に至るまでの昭和史の影の部分を綴ったともいえる
エッセイ。昔の探偵小説に登場する犯罪者のように古いアパートに潜んでみたいという願望や
人攫いの話、軍服と女装は冬服と夏服の関係だという妖しい論理展開、街にいなくなった狂女
の話、映画の中に登場するにやけた色男への憧れ、詩や古い歌謡曲や失われた小説などなど妖
しい話が満載です。紅差し指がどの指なのか?知らない人はこの本を読めばわかる!どことな
く懐かしく昭和を知らない世代も楽しいはず?ちょっとマニアックというかフェチな人にお勧め。

「三鏡」4月19日

著者:出口王仁三郎、出版社:八幡書店

はっきり言ってこの本も妖しいです(笑)。明治の中頃から戦前にかけ、一世を風靡した大本教の
聖師と呼ばれた神とも怪物とも言われた出口王仁三郎氏の聖言集。ちょっとマニアックで宗教関係
に興味のない人にはあまり進められないかも。大本教といえば戦前大弾圧されたことで有名ですが
古神道系新興宗教に興味のある方、或いは哲学・思想・民俗学に興味のある方はご一読を。理解で
きないところもあるけど、ためになる話もあり。深入りしそうな人にはお勧めできないです(^^;。

「怪奇十三夜」4月21日

著者:倉阪鬼一郎、出版社:アトリエOCTA

なんか続けてあやしい本(笑)。倉阪氏初期の怪奇短編集。初期のせいか技巧を凝らしすぎて
理解しづらい作品もあった。特に表題作は奇を衒いすぎた感がある。でも広範囲なオカルト知
識で楽しんだ。クトゥルー神話めいたのや狂気なの、幽霊譚やら多種のホラーに挑戦している。
それにしても「水を浴びせたような・・・」という表現が内田百聞の発明だったとは知らなかった。

「香水」4月28日

著者:パトリック・ジュースキント、訳者:池内紀、出版社:文藝春秋

無臭の男。こう書くとなんだか忍者を思い出すけどそんなものではない。匂いに取り付かれて
しまった男の話です。その男はジャン=バティスト・グルヌイユ。グルヌイユとはフランス語
で蛙のことだそうな。彼は生まれた境遇から悲惨だったけど人並みはずれた才能を有していた。
ありとあらゆる匂いを嗅ぎ分ける男。たとえどんなに入り混じった匂いでも。ある時、なんと
も表現できない芳しい匂いを嗅いでからこの男の人生は一変する・・・。グルヌイユの伝記と
いう形式で書かれてます。この人物は実在なの?と思わせます。(どっちか知らない)落ちは
ちょっとあっけなかったけど読み応えのある作品。しかし昔ってそんなに臭かったのか・・・?

一つ前に戻ります。


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