99年7月の本のほらあな


「フィンランド語は猫の言葉」7月1日

著者:稲垣美晴、出版社:講談社文庫

今から20年以上前、フィンランドの芸術について勉強するため単身フィンランドに留学した
作者。しかし芸術を学ぶためにはフィンランド語をマスターしなければならない。そこで悪戦
苦闘する作者自身の姿を描いたエッセイ。フィンランド語は猫の言葉とはフィンランドでの作
分コンクールに応募した時の題名である。それはニーン、ニーン、とフィンランド語で相づち
を打つ言葉が猫の鳴き声に聞こえるから、というところからきている。フィンランドは昔から
憧れの地の一つなのでとても興味深くしかも楽しめました。それはもちろんムーミンの影響で
すが、この作者のユーモラスでかなり微細な生活の描写によりフィンランド好きになったかも。
あー、一生に一度でいいからフィンランドの地を踏んでみたい・・・。奇跡起きないかな?

「リトル・カントリー」上下7月6日

著者:チャールズ・デ・リント、訳者:森下弓子、出版社:創元推理文庫

今までこの本を読んでなかったとは・・・不覚・・・。もともとファンタジーは大好きなんですが、そう
思わせるほど面白かったです。屋根裏部屋に隠された一冊の本を発見したのはジェーニー。それ
は大好きなファンタジー作家ダンソーンの未発表の作品「リトル・カントリー」だった。しかも
その本はなんと限定一部!さっそく読み始めたジェーニー。だが彼女が読み始めると当時に不思
議な音楽を聴いたり、その本を付狙う怪しい人物が現れ始める。その本の秘密とは・・・?この本の
中に登場するジェーニーの読んでいるダンソーンの「リトル・カントリー」も面白い。(ややこ
しい(^^;)なんか質のいいファンタジーですね。分厚いけどぐいぐい引き込まれました。テ
ーマもなかなかいい。寡聞にして日本ではあまりこういう作品を知りません。海の向こうでこう
いう作品が生まれるのはなぜか?理由でもあるのだろうか?とにもかくにも上質のファンタジー
読んでみても損はしないと思います・・・。たぶん・・・(^^;。でも少なくともわしにとっては心
に残る作品の一つとなるでしょう。今まで読んだこの手のファンタジーすべてを思い出した。な
んかわしってこういうテーマに弱いのだろうか?あーあ、コーンウォールかー。行きたいなー。
読んで気に入ったらすぐその土地へ行ってみたくなってしまうわしであった・・・。

「百鬼譚の夜」7月13日

著者:倉坂鬼一郎、出版社:出版芸術社

好みから言うと「赤い額縁」より上かも。短編の形式をとった長編なのか?連作として楽しめます。
主人公は「赤い額縁」で探偵役をやった吸血鬼の二人組。まだ読んでない人はこっちから読んだほう
がいいです。この作品の最初ではまだ二人は吸血鬼になってない。中身は赤い羽根が恐ろしい男の話
「赤い羽根の記憶」、呪われた幻の本の話「底無し沼」、失踪した詩人に起こった話「黒い家」、百物語の
怪異の話「百鬼譚の夜」の4編からなってます。どれもわかりやすくてホラーマニアでなくとも充分楽しめ
る怪異譚になってます。ひょっとすると「赤い額縁」以上に気に入ったかも。やっぱり怪談は短編だ!

「活字狂想曲」7月17日

著者:倉坂鬼一郎、出版社:時事通信社

怪奇小説家が某印刷会社で校正者の仕事をしていた時のことを綴ったエッセイ。会社や取引先の
理不尽さにしょっちゅう切れてたみたいです。それが面白く書かれてて笑えました。奇人・変人
がぞろぞろ出てくるところもいい。そのあだ名がまた笑えます。ただ印刷・広告業界の人は洒落
にならないみたいなのでお勧めできないっす。それ以外の人にはお勧め。でもこういうブラック
で悲惨な状況を書いてしまうとはさすが怪奇小説家というべきなのか?

「空想歴史読本」7月27日

著者:円道祥行、出版社:メディアファクトリー

今回も爆笑させていただきました。空想歴史の年表はマグマ大使に登場のアース様が地球を作る
ところから始まります(笑)。日本沈没が2回だの4度の第三次世界大戦だのかなり笑わせてく
れること請け合いです。TVや映画のアニメや特撮ものにあまり詳しくない人も空想歴史の矛盾
に笑わされるでしょう。そういうわしも見てないのがかなりあった。なんだかビデオ屋に走りた
くなりました。そういうこと考えて見るとまた別の楽しみ方が出来るのでわ?

「芦屋家の崩壊」7月29日

著者:津原泰水、出版社:集英社

怪奇幻想の短編集。怪異の起きるトンネルの話の「反曲隧道」、大学時代に出会った不思議な女の
話の表題作「芦屋家の崩壊」、すげー気味の悪い座敷女みたいなのが登場する「猫背の女」、蟹の
怪異譚「カルキノス」、悲鳴の女王の実家の悪しき慣習についての話「ケルベロス」、おぞましい
虫を食う男の話「埋葬虫」、神経症に陥った主人公に起こる不思議を描いた「水牛群」。どれも怪
談好きにとってはたまらなくこわ面白い。主人公の猿渡と伯爵の名コンビもなかなか。なぜか雰囲
気が全然違うのに倉阪鬼一郎氏の怪異譚「百鬼譚の夜」や「赤い額縁」のコンビを思い出しました。
こういう粘質の恐怖とでもいうのかねばねばまとわりつくような恐怖はおぞましく、現実には起こ
ってほしくない、という気持ちを強く抱かせます。現実じゃなく小説でよかったとほっとしました。

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