山道具


「僕は何も回顧趣味に溺れるわけではない。近代科学の恩恵にあずかぬことは馬鹿げている。しかしヴァレリーが、近代の人間の精神的怠慢は科学の発達による、という意味のことを言っていたことを思い出す。
スピードとイージーが容易く手に入る結果われわれはもはや苦労して得ようとはしなくなった。
手軽な翻訳本が出てきたために誰も字引を引き困難して原著に就くものがなくなったようなものである。
精神の滋養となるものはそういう困難の中に存するのだが。」深田久弥


昔の山道具でいまだに現役で使っているものもありますが多くは何代か買い換えてしまいました。確かに山道具は良くなりました。軽く高機能になり防水性通気性断熱性に優れ暑さ寒さに対処できる優れた装備が揃うようになり便利になりました。
いいことずくめで文句がありませんがこの装備のお陰で登山者が退化した一面があるかもしれません。昔 綿のヤッケを持っていましたが、ワセリンを塗ってもバリバリに凍って剣道の胴着のようでした。今は高機能素材で素晴らしい性能を発揮するのですが、劣悪な装備しかなくてもそれなりに山へ登っていた当時の方が遙かに山を楽しめていたのかなとも思っているのです。
断熱性能の悪いシュラフでまんじりともしない夜を耐えしのぐ精神力を養ってくれたのも性能の悪いシュラフのお陰でした。
性能の悪い断熱マットは一晩中下から冷気を伝えてくれて、ただ朝が待ち遠しいのでした。今のサーマレストなど快適過ぎます。


しかし、今考えれば悪い装備のお陰でそれなりに深く山を楽しめたのではと思います。
もし仮にいい装備で楽に熟睡し寝過ごすような苦労知らずの山の経験をしてしまっていたら随分つまらない登山で印象も薄いものになっていたでしょう。
苦しんでやっと登った方が喜びは大きいのです。簡単にロープウェーやドライブウェーで登ってしまっては山頂での喜びは少ないのです。登山は難行苦行のほうが印象が強く残ります。実はより自然に親しむには過剰装備は妨げになるのです
危険を避ける技術や精神力体力を鍛え上げた上で出来る限り自然に親しめるように使いこなせる必要最小限の装備であれば山の楽しさもぐっと増すことでしょう。

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2002年10月10日 第1版制作


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