イギリス総選挙で保守党が大勝

〜 混迷の末のEU離脱 〜



EU欧州連合からの離脱を巡って混迷を深めていたイギリス総選挙が行われ、与党・保守党が下院の過半数を大きく上回る議席を獲得して大勝した
この結果を受けて、ジョンソン首相は「来年1月末までにEUからイギリスを離脱させる」という約束を果たすと強調した。

イギリスでは3年半も前に国民投票でEU離脱を決めた。事前予想では、離脱支持と残留支持が拮抗しながらも、多くの人が「最後は残留派が勝つだろう」と思っていた。ところが僅差で離脱派が勝ってしまった。まさか離脱派が勝つとは思わなかったから投票に行かなかった残留派もいただろうし、まさか離脱派が勝つとは思わなかったから、わざと離脱支持に投票した天の邪鬼の残留派もいただろう。

冷静に考えれば、誰が考えたって呆れてものが言えないほど愚かな投票結果だったが、その後の展開も愚かのオンパレードだった。EUとの離脱条件の調整が一向に進まず、袋小路にはまってしまったのだ。
声高に離脱を喚いていた政治家の中にも、実は本音では「残留の方が良いに決まっている」と分かっていながら自分の選挙対策で離脱を訴えていた者もいて、国会での議論は混迷に次ぐ混迷だったのだ。
そして、国民投票の結果が出た直後に辞任表明をしたキャメロン首相の後を継いだイギリスの2番目の女性首相メイ首相が、ようやくなんとかEUと交渉して離脱協定案をまとめ、これを今年1月に下院に法案として出した。ところが、議会では大差で否決されてしまった。当初の離脱予定日は今年の3月末だったが、EUにゴネて、と言うか、お願いして、何度も延長された
政府は少しずつ条件を変えた離脱協定案を議会に出していったが、どの選択肢でも議員は一つにまとまることができなかった。議員たちは「この案はここが嫌、この案はここが嫌」などと子供みたいに駄々をこねてばかりで、それじゃあどうしたらいいのかってのはまるで提示できない。週刊誌の記者のように政府のスキャンダルを追及するしか能が無くて、何の政策提言もできない日本の民主党と全く同じで、イギリスの議員達の愚かさが世界中にさらけ出された

このため、メイ首相の後を継いだジョンソン首相がEUと新たな離脱協定案をまとめたうえで総選挙に打って出たのだ。そして、それが成功した。
3年半に及ぶ議会の混迷に愛想を尽かせた国民は、残留派も含めて「何でもいいから早くなんとかしてくれ」と思うようになったのだ。国民投票で離脱することは決まったものの、いつまで経っても「どうやって離脱するか」を議会が決めることができないため、先行きが不安なまま日々が過ぎてきたから、もうウンザリだったのだ。
本当は離脱したくないけど、こんな混迷が続くのに比べたら、早く離脱した方が今後の事を考える事ができるから、まだマシだ、という事だ。可哀想と言うか、気の毒だが、もとをただせば、国民投票で離脱を選んだ国民が愚かだったのだから仕方ないわな。

もし野党が残留を明確に打ち出していたなら、選挙結果は変わっていただろう。ところが野党の労働党は、混迷を重ねてきた議会を象徴するような、どっちつかずの日和見主義的な主張だった。なぜなら労働党の議員の多くは残留派なんだけど、労働党の支持者には離脱派も多いからだ。そして、離脱か残留かはっきり言わず、再度の国民投票なんかを公約にした。
労働党のコービン党首が極左で、産業の国有化だなんて時代錯誤的な公約を訴えたのも敗北の一因ではあるが、EU離脱に関するどっちつかずの日和見主義的な主張に嫌気が差した労働党支持者が保守党に投票したのが、保守党圧勝の主因だろう
要するに、目先の事しか考えられない愚かな国会議員達の行動がもたらした結果だ。

保守党の圧勝により、ようやくイギリスはEUを離脱する事になるだろう。とんでもない呆れた事態だ。イギリス国民と議員達の愚かさが白日の下にさらされてしまった。
もちろん、イギリス国民の愚かな投票行動にも同情の余地が無いことはない
なんと言っても大きいのが移民問題だ。離脱派は、EU加盟国から毎年25万人程度の移民が英国に流入し、公的な医療や教育制度を圧迫していると主張している。ただし、この動きは急に始まったものではなく、元々ロンドンには世界各国からの移民が溢れていて、それがイギリスの活力の源泉だった。それなのに近年、急に問題として取り上げられているのは、シリア等からの難民がEU中に溢れ、各国で大問題になっているからだ。これには、最初は難民に甘い顔をして難民のEU殺到を招き、慌てて制限を始めたドイツのメルケル首相の失政によるところが大きいが、イギリスだけでなく、難民問題に直面しているハンガリーやオーストリア等で極右勢力が大躍進しているのは難民問題のせいだ。
また、重要な政策の決定権がEUに移りつつあるため、自国の主権が制限されているとの主張も大きい。EUが硬直した一律規制を各国に課すため、各国が柔軟な政策を取れなくなっている。いけ好かない高圧的なEUの官僚共に自国の政策の決定権を牛耳られるのは嫌だろう。

もともとイギリスはEUには距離を置いており、戦後のヨーロッパ統合の動きには反発的だった。
EUは2回も起きた世界大戦の反省から、二度とドイツがフランスと戦争しないように作られた枠組みだ。あくまでもフランスとドイツを中心にした枠組みであり、イギリスは長らくEFTAを組織してEU(当時はEEC)に対抗していたくらいだから、そもそもEUに対する感情は良くない。統一通貨のユーロが導入されても、イギリスは自国の通貨ポンドを維持し続けてきた。
さらに、経済的な制度の統一はグローバル化が進む世界にあって大いに有益だろうけど、それ以外の政策でも統一するってのは、まさに主権の制限であり、さすがに抵抗が大きいのは理解できる。実際には移民が入ってきて経済が活性化していても、なんとなく嫌な感情を抱く人がいるのは理解できるし、そういう移民政策なんかでもEUの官僚が取り仕切って自分達の主権が侵害されていると考えればEUなんか脱退しちゃえっていう気分にもなるだろう。

だが、そもそも各国が一律の政策を行う事がEUの目的であるのだから、一律規制が各国に課されるのは当たり前だ。それによって損害を被る人達はどの国にだっているだろう。それはEUに限らず、TPPを始めとする様々な国際協定や国際条約も同じだし、個別の貿易協定だって同じであり、それによって得する人もいれば損する人もいる。そして当然ながら、損する人は自分の生活がかかっているので声高に反対を叫ぶ。しかし、たいていの場合は、国全体で見れば利益の方が大きいのが普通だ。EUの政策はEU官僚が作る柔軟性に乏しいものが多いが、それでもトータルで見れば、EUに加盟して従う方がイギリスの国益にかなうだろう

なので、常識的には、どう考えもイギリスはEUを脱退すべきではない。一部の人達はEU脱退によって感情的に嬉しいかもしれないが、どう考えても損失の方が大きい。
例えば、日本だって韓国と戦争してボコボコにしてやった方が気分はスッキリする人が多いだろうけど、どう考えても損失の方が大きいから我慢してアホな国と付き合っているのだ。

(石材店)「幹事長は気分がスッキリするんでしょ?」
(幹事長)「ふぁいといっぱぁつ!」


EU脱退によりイギリスのGDPが長期的に縮小するのは確実だから、失業率は上昇し、ポンドは下落し、インフレに襲われるだろう。EU脱退に喝采している人だって、結局は損する人が大半だ。なので、イギリスはEUを脱退するべきではない。誰がどう考えたって当たり前の話だ。

でも、誰が考えたって愚かな投票結果だが、トランプ大統領を選んだアメリカ国民も、同じくらい、あり得ないほど極めて愚かだ
かつて日本も民主党政権を誕生させて阿鼻叫喚の暗黒時代を招き、愚かな選択による手痛いしっぺ返しを受けたが、なんとか後戻りできた。アメリカも次の選挙でトランプ大統領を落選させれば後戻りはできる。(実際に後戻りするかどうかは予断を許さないが)
しかしイギリスのEU離脱は後戻りはできない。少なくとも数十年はEUには戻れないだろう。

国民投票や国民が直接大統領を選ぶような制度が、いかに愚かな結果を招くのかがよく分かるだろう直接民主主義の限界と言うか愚かさが証明された投票結果だ国民というのは、どこの国でも愚かなものなので、そんな愚かな民衆にまともな判断なんてできないのだ。

(2019.12.15)



〜おしまい〜





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