ロシアのウクライナ侵攻

〜 プーチンは気が狂ったのか? 〜



ロシアが突如としてウクライナ侵攻した
もちろん突如としてと言うのは我々から見ての印象であり、ロシアは以前から着々と準備はしていた
それに対してアメリカはちゃんと監視しており、ロシア側の詳細な行動を把握しており、度々警告も発していた
しかしながら、ヨーロッパ各国は「アメリカが勝手に煽っているだけだ。ロシアがそんな軽はずみな暴挙に出るはずがない」なんて高をくくっていた。プーチンの理性を信じていたからだ。
間抜けなフランス大統領やドイツ首相は、間際までプーチンと会談したりしていたが、何の力にもならなかった。
当のウクライナ政府自身でさえも、まさか本当にこんなに大規模な侵略が起きるなんて思ってなかったようで、「アメリカは不用意に煽りすぎている」なんて批判していたくらいだ。

アメリカがロシアの動きを正確に把握して警告してにもかかわらず、我々が油断していたのは、今回のロシアの侵攻が、ロシア自身にとって何の得にもならないからだ。
まさかプーチンが、そんな無意味な事をするとは思わなかった。無意味と言うより、ロシアにとって百害あって一利なしの侵攻だ。

(幹事長)「プーチンは何を考えてるんだ!?」
(石材店)「国際紛争オタクの幹事長が分からないものを私に分かるわけないでしょ!」


ロシアにとってウクライナは特別な地域なので、心情的にはウクライナがロシアから離れてEUやNATOに加盟するのが我慢ならないのだろう。その気持ちは理解できる。
しかし、軍事侵攻によってウクライナを併合したりしたら、悪の同盟国である中国を除き、世界中から総スカンをくって経済的に破綻するのは明らかだ。
ロシアは軍事的にはアメリカと並ぶ超大国の力を維持しているが、経済的には大国とは言えないまでに落ちぶれている
今のロシア経済を支えているのは石油や天然ガスだが、今回の侵攻によって原油や天然ガスを買ってくれるのは悪の同盟国である中国だけになるだろう
いくらウクライナを併合して心情的にスッキリしたって、経済的に破綻したらボロボロになるだろう。
こんな明らかな結果をプーチンは理解できないのだろうか。まさかプーチンはアルツハイマーでまともな思考ができなくなっているのだろうか。プーチン・習近平・金正恩のキチガイトライアングルが形成されたのだろうか。

プーチンは、ウクライナのEUやNATOへの加盟を許せば、敵が国境まで迫ってきて、将来的にはロシア自身が攻め込まれる、なんて心配をしている。この不安感も心情的には理解できる。
例えば、北朝鮮が韓国を併合して日本に迫ってきたとすると、日本人は落ち着いてはいられない。北朝鮮も狂犬のような国だが、その背後に悪の巨大帝国である中国が控えているとなると、夜もおちおち眠れなくなるだろう。
そうなる前に日本が韓国に侵攻して日本の傀儡政権を樹立すれば、まずは一安心てところだ。
しかし、今回のウクライナ問題とは根本的に異なる点がある。北朝鮮や中国は、本当に日本に攻めてくる可能性が極めて高いキチガイみたいな国だ。
一方、EUやNATOは理性的な国々であり、ロシアに攻め込む可能性は皆無だ。誰がどう考えてもEUやNATOがロシアに攻め込むなんて、有り得ない。何の得にもならないからだ。
もしプーチンが本気でNATOによるロシア侵攻を心配しているのなら、アルツハイマーにかかって完全に理性を失っているとしか思えない。
自分が平気でウクライナに軍事侵攻しているので、相手も同じようにロシアに攻めてくるかもしれないという強迫観念に捉われているのだろうか。

ウクライナは元々ロシアとは良好な関係だった。て言うか、ロシアとウクライナは切っても切り離せない関係だった。
8年前にロシアがウクライナ領のクリミア半島を併合した時に書いたが、この両国の関係をおさらいしてみよう。

歴史的背景

もともとウクライナはソ連の一部だったウクライナはロシア革命の直後、ソ連に組み込まれ、ソ連の主要な構成国の一つとして存在していた。
ソ連はロシアを始め、全部で15の国で構成されていたが、ウクライナは東部に工業地帯、西部に穀倉地帯を抱え、ロシアに次ぐ重要な国だった
ほとんど全ての人は知らないと思うが、当時、ウクライナはソ連に属していながら、独自に国連にも加盟していた
ソ連の時代は、ソ連が1つの国として扱われていたにもかかわらず、ウクライナはベラルーシと共に、ソ連とは別に、独自の国連議席を有していたのだ。子供心に、とっても不思議だった。

ソ連時代は、ウクライナに限らず、ソ連の構成国はどこもソ連という大きな枠組みの中で役割分担をしていた。そのため、ウクライナは自国の市場は小さくても、農業と工業を発展させることができた。
しかし、ソ連が崩壊した後は、その経済力を維持するためには、ロシアかEUか、どこか大きな経済圏に属さなければならなかった
ソ連の衛星国であった東ヨーロッパ諸国は、ソ連に苦しめられたためロシアが大嫌いになったこともあり、全ての国々が西ヨーロッパの側につき、EUやNATOへの加盟を果たしてきた
一方、ソ連の内部の国であり、歴史的にもロシアと関係が深いウクライナは、ロシアが主導するCIS(独立国家共同体)のメンバーとなった

しかしながら、ウクライナに比べればロシアだって十分に大きいが、EUの方がはるかに経済力が大きいし、生活レベルも高いので、ウクライナとしてはEUの方に魅力を感じ始めた
特に、EUに近い西部の人たちは、親欧州派というか反ロシア派の人たちが多く、EU加盟を目指すべきだという声が大きくなってきた。
経済が低迷するウクライナに比べ、隣のポーランドがEU加盟後にめざましく成長しているのを見ているので、よけいにEUにあこがれる人が増えてきた。

一方、工業地帯が多い東部では、現実的な問題としてロシアとの関係維持を求める人も多かった
ソ連時代からの歴史的背景により、ウクライナの工業はロシア企業との関係が深く、エネルギーもロシアに依存してきたからだ
なので、東部の人たちはロシアへの親近感も強いし、ロシアとの関係を重視していた

なので、ひとくちにウクライナと言っても、国内は一様ではなかった
このような歴史的背景のもと、西部を中心とするEU指向の高まりを受けて、2005年に親欧州派の政権が誕生した
しかし、それを許さないロシアが、ウクライナに供給している天然ガスの価格を大幅に引き上げると脅したりした。
その時は、ロシアの作戦が成功して、2010年に親ロシア派で強権的なヤヌコビッチ政権が誕生した。そしてヤヌコビッチ政権は、親ロシア的な政策に大きく梶を切った
しかし、この大統領の方針転換に猛反発して、西部地域を中心に親EU派の市民や野党指導者らが反政府デモを始めた
彼らは、ヤヌコビッチ政権の政策だけでなく、ロシア的なヤヌコビッチ政権の強権政治や腐敗にも怒りを抱き、ソ連時代に戻りたくないという感情も強かった。
そして、この反政府デモが手を付けられなくなり、2014年にヤヌコビッチ大統領は夜逃げして、ヤヌコビッチ政権はあっさりと崩壊した

クリミアの併合

ただ、いくらヤヌコビッチ政権が崩壊しても、ウクライナ国民は一体ではないので、ややこしくなった。
特に、歴史的にロシアとの関係が深い東部では、親ロシア的風潮が強い。その中でもクリミアは特殊であり、クリミアは特にロシアにとって重要だ

そもそも、かつてクリミアはロシアの領土だった
それが、ウクライナが帝政ロシアに併合されて300年となる1954年にウクライナに譲渡されたのだ。当時、ソ連共産党書記長だったフルシチョフによって、ウクライナのモスクワに対する忠誠心への褒美として譲渡されたのだ。
フルシチョフがアホだったわけだが、当時は、まさかソ連が崩壊するなんて思ってた人はいなかったから、ロシアからウクライナへの譲渡と言っても、あくまでも形式的なものであり、後々大問題になるとは思わず、お気楽に譲渡してしまったのだ。
なので当時は、クリミア地方でも、譲渡に対して特に大きな反対運動は発生しなかった。

このような背景があるから、クリミアではロシア系住民が多数派であり、ロシアに対する思い入れが強く、ロシアのパスポートを持つ住民も少なくなかった。そのため、ソ連崩壊後の1990年代にはウクライナからの独立運動が激化した。
それに対して、ウクライナ政府は1996年に、クリミアに独自の憲法や選挙実施、予算執行など強い権限を持ちうる自治共和国の地位を与えた

また、大きな変動要因とは言えないが、タタール人の問題もある。
もともとクリミアにはタタール人が住んでいた。18世紀までは、ウクライナへ来襲して、ウクライナ人の奴隷狩りを行っていたと言うから、問題の根は深くて複雑だ。
18世紀終盤の露土戦争の結果により、クリミアはロシア帝国に併合され、ロシア人やウクライナ人が移民として大勢押し寄せたため、19世紀初めにはタタール人は少数派になった
20世紀初めのロシア革命時には、クリミア共和国の設立を宣言したんだけど、ソビエト政権がこれを解散させてクリミア自治ソビエト社会主義共和国として、再びロシアというかソ連の一部になった
さらにその後、スターリンにより、タタール人はドイツに協力したという嫌疑をかけられ、全住民が中央アジアに強制移住させられた
草木も生えない中央アジアに全住民を強制移住させるなんて、ユダヤ人を根絶しようとしたナチスドイツに匹敵する驚愕の暴挙だが、ソ連国内の話であり、当時は問題にはならなかった。
スターリンの死後は、クリミアへの帰還運動が始められ、現在は約25万人のタタール人がクリミアに住んでいるが、それでもクリミアの全人口の1割を占めるに過ぎず、あくまでも少数民族であり、政治力は乏しい
だが、タタール人こそが元からクリミアに住んでいた原住民であり、ロシアによる併合や強制移住させられていたために少数派に転落したという歴史があるため、再びロシアに編入されるなんて事は許容できないだろう。
またウクライナに対しても複雑な気持ちは抱いているはずだ。彼らとしては、本当はどこからも独立したいだろう。

このような複雑な歴史的背景を持つクリミアだが、ロシアとして最も重要な問題は、クリミアがロシア黒海艦隊の軍港がある戦略的に重要な地域だということだ。
ソ連崩壊後は、ロシアはウクライナから海軍基地を借りる形で駐留していたので、ウクライナがEUに加盟なんかしたら、基地の継続使用ができなくなるかもしれないという危機的状況になる。
だから、ウクライナ全体がEUの方に逃げていったとしても、少なくともクリミアだけは死守したかったのだ。
てな訳で、ロシアは8年前に強引にクリミア半島を併合してしまった

EUの対応

クリミアを強引に併合したロシアに対して、当然ながらEUは反発し、制裁を口にした
だがしかし、EUの態度は、明らかに腰が引けていたウクライナはロシアから欧州に送られる天然ガスの中継地点なので、EUはウクライナ情勢の安定を望んでいるのだ。
上にも書いたように、以前、ウクライナに親EU政権が誕生した時、ロシアはウクライナ向けのガス価格を引き上げ、それを拒んだウクライナに対してガスの供給を止めてしまった。
ガスのパイプラインはつながっているため、ウクライナへのガス供給を止めるという事は、ウクライナを経由してヨーロッパ諸国に供給しているガスも止まることを意味する。そのため、ヨーロッパ諸国は大混乱に陥った。
その悪夢の再現は避けたかったので、ロシアのクリミア半島併合に対し、EUは口では強い非難を繰り返しながらも、本格的な制裁措置には踏み込まなかった
ロシアのウクライナ侵攻は容認したくないんだけど、だからと言ってロシアと全面対決はしたくないのだ。

もちろん、これはロシアにとっても同じだ。
ガス供給に限ったことでなく、EUとロシアの経済関係は緊密だ関係の悪化は両者にとってメリットにならない。お互いに、新冷戦になんかなって欲しくない。
EUはエネルギーの輸入元の多角化を進め、ロシアからのエネルギー供給依存度を減らすよう努力し続けており、ガス供給が止まれば、ロシア経済にも大きな悪影響が及ぶ。
てな事情で、クリミア半島併合の時は、結局、ロシアの暴挙に対してEUは強い態度には出られず、うやむやに終わった

たぶん、ロシアとしては、今回のウクライナ侵攻に対しても、結局、EUは強い態度には出ないだろうと高をくくっていただろう
ところが、プーチンの誤算と言えるかどうか分からないが、さすがに今回のウクライナ全土に対する全面的な軍事侵略は国際的な批判にさらされている。ロシアに味方しているのは同じ悪の帝国の中国だけだ。
ロシアからの天然ガスの供給が止まればヨーロッパ諸国は大混乱に陥るだろうが、それでもウクライナ侵攻を許す訳にはいかないので、さすがに今回はロシアに対して強い制裁措置を打ち出した
何も正義だとか道義の問題ではない。実利の問題だ
クリミア半島併合の時と何が違うのかと言えば、クリミア半島はあくまでも小さな地域であり、元々ロシアの領土でもあったので、許容範囲だった。
しかしウクライナ全土がロシアに支配されるとなると、EUおよびNATO側としては、国境にまでロシアが迫ってくる事になる。そうなると、東ヨーロッパのポーランドなんかは次に狙われる可能性が高くなる
まさに死活問題だ。多少の経済的混乱なんて許容範囲だ。もう必死なのだ。

ウクライナはEUとロシアに挟まれる位置にあり、どっちもウクライナを仲間に入れたいと思ってきた。こういう状況は、特別珍しいものではなく、冷戦時代にはフィンランドやオーストリアなんかは、うまく立ち回っていた
しかし、今回のロシアによるウクライナ全土への軍事侵略により、長らく中立を守ってきたフィンランドやスウェーデンがNATOへの加盟を真剣に検討し始めた。ロシアにとっては誤算の逆効果だった。
ウクライナでも、これまでは親ロシア的でロシアとの関係強化を望むウクライナ人も多かったが、今回の軍事侵略により、ウクライナ人の民族意識が刺激され、国民の大多数が反ロシアに転じるだろう

アメリカの対応

いくらヨーロッパ諸国がロシアに反発しても、軍事力の面から言うと、ロシアには対抗できない。そこで鍵を握るのは、やはりアメリカだ

しかし、アメリカの態度は煮え切らない。冒頭にも書いたように、アメリカは随分前からロシアの動きを掴んでおり、強く警告を発していた。
しかし、警告を発するだけで自ら動こうとはしなかった。ウクライナはアメリカの同盟国ではないので、軍を派遣する義務は無いからだ。

もちろん、アメリカは過去には同盟国でなくても平気で軍を派遣してきた。自国の利益を守るためなら、世界中のどこへでも軍を派遣してきた
イラクにしてもアフガニスタンにしても、同じだ。大義名分はいかようにも付けられる。
同じように、ロシアも周辺国に平気で侵攻してきた。古くはハンガリーやチェコスロバキアで民主化運動を粉砕するために軍事介入したし、アフガンにも侵攻した。
ウクライナと同様に、グルジアにも侵攻して、南オセチア自治州とアブハジア自治共和国を強引に独立させて保護国にした。
ロシアにしたってアメリカにしたって中国にしたって、大国は自国の利益のためなら、どんな屁理屈をこじつけてでも平気で他国に軍事侵攻する。大国とは、そういうものだ。

アメリカは経済的にはEUほどロシアとの関係が緊密でないから、クリミア半島併合の時はEU以上にロシアを強く非難した。ただ、口では避難しつつも、実際には何もしなかった。
そして、今回も同じだ。ウクライナの市民がどれだけ殺されようと、アメリカは軍を派遣する事はない。ロシアも、それは十分に分かった上で軍事侵略しているのだ。
国際法がどうのこうのとか、正義がどうのこうのとか、EUもアメリカも口先ではきれい事を言ってるが、結局は自国の利益になる行動しかしない

弱腰オバマは「アメリカはもう世界の警察官にはならない」と宣言した。もちろん、アメリカの利害がからむ地域なら今でも平気で侵攻するだろうけど、アメリカにとってウクライナは、それほど重要って訳ではない。
軍を派遣すると金もかかるし人的損害も被る。あれほどの被害を被った割には成果の乏しかったイラクから撤退し、あれほどの犠牲を払ったアフガンからも撤退したアメリカに、またまた新たに侵攻する気合いは無い。
中東と違って、ウクライナには死守すべきアメリカの利益は無いのだ。

てな事で、アメリカもヨーロッパ諸国もウクライナに直接軍隊を派遣する事はない。なので、ウクライナ全土がロシアに占領される可能性は高い
しかし、その結果、ロシアは経済的に破綻し、大混乱に陥るだろう
誰も得をしない虚しい戦争だ。そして、それを見て喜ぶのは悪の大帝国である中国だけだろう。

(2022.3.7)



〜おしまい〜





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