納豆を食べる

〜 薬と思って 〜



私は納豆が嫌いだ。納豆に対する怒りと不満は、以前、ぶちまけた。
しかし、納豆は体に良いらしいのだ。
納豆が体に良いっていう話は昔から聞いてはいたが、単なる健康食品の一種で、そんなにものすごく良いって話でもなかったので、あのマズいマズい物体を食べて吐き気を催しながら嫌な思いを3ヶ月くらい引きずるデメリットに比べれば、多少の健康を手に入れたとしてもメリットは無い、むしろ精神的なダメージの方が悪影響が大きい、って思っていた。しかし、実は、納豆の良さは、かなりすごいもんらしい

まず、娘が聞いた話では、「インドへ行けば、日本人なら誰でもお腹をこわすけど、納豆を食べている人は大丈夫らしいよ」との事なのだ。「なんでや?」「納豆がバイ菌を殺すんとちがう?」「普通なら殺そうとしても死なないバイ菌を殺すなんて、それって猛毒の固まりやんか。コカコーラに錆びた10円玉を入れておくと、一日でピカピカになるっていう恐ろしい話は聞いたことあるが、それに匹敵するくらい怖い話やなあ。胃に穴が開くんとちゃうか?」
まあしかし、僕は、今、どこへ行ってみたいかと言えば、真っ先に行ってみたいのがインドである。早く行きたい。すぐ行きたい。明日行きたい。でも、なかなか行けない。そうこうするうちに歳取っていく。行けるのは高齢者になってからかもしれない。そうなると、健康面がますます不安だ。インドへ行くのに備えて納豆を食べておいた方が良いのかもしれない。

インドはどうでもええとしても、さすがに40代なかばになると、何かにつけ健康面で不安も出てきてしまい、食べ物にも気を遣わなければならないかも、っていう強迫観念が出てきた。そんな時に、納豆を絶賛する記事を読んだのだ。

まず、納豆の納豆菌は血栓を溶かすナットウキナーゼという酵素を作り出すらしい。血栓は血の塊で、血管を詰まらせて心筋梗塞や脳梗塞の原因となるものだ。ナットウキナーゼ自身が血栓を溶かすだけでなく、血栓を溶かすプラスミンという別の酵素を活性化させる働きもあるほか、においの中のピラジン化合物も血を固まりにくくするという。つまり、納豆を食べれば心筋梗塞や脳梗塞の予防になるのだ。
また、納豆には骨を強くする効果もあるらしい。納豆菌は、食事で取り入れたカルシウムを骨にくっつけるノリ役のたんぱく質合成に必要なビタミンK2をつくる。そのため、納豆消費量と大腿骨骨折の発生比には相関関係があり、納豆の消費量の多い東北、関東地方は骨折の発生比率が低いが、納豆消費量が半分程度の近畿以西は、骨折の発生比率が高いそうだ。ほんまか?
また、納豆のネバネバには、カルシウムをはじめとするミネラルの吸収を助ける働きがあるらしい。ネバネバはアミノ酸の一種のグルタミン酸が30〜5000個つながった状態であり、このネバネバがカルシウムと結びつくと、腸内で吸収されやすくなるという。
さらに、便通をよくするほか、食中毒の防止にもなるという。便通を良くするビフィズス菌が増えるらしい。大豆に含まれるオリゴ糖と納豆菌の細胞膜をつくるアミノ酸の断片をビフィズス菌が食べることで増殖し、それにより腸内運動が活発になり便通がよくなるのだという。食中毒の原因になる悪玉菌のクロストリジウムも減少する。腸内の酸性度が増し、悪玉菌が生きにくい環境になるからだ。大腸菌などの活動も弱まることで便のにおいも弱くなる

ここまで圧倒的な効果があるとすれば、簡単に無視もできない。

僕は、そんなに大食らいでもなければ、大酒のみでもないし、それほど極端に食生活が偏っている訳でもないのだが、決して、胸を張って自慢できるほどバランスの取れた食生活でもない。もちろん、薬や栄養剤やサプリメントは信用していない。こうなると、納豆でも食べてみようか、って事になった。
家内に言ってみると、彼女も生まれてこのかた1粒しか納豆を食べたことがない納豆嫌いなのに、「そうよ。納豆は体に良いんよ。少しづつ食べ始めてみよう!」って事で、納豆を食べてみることにした。「他のものと一緒に炒めたりすれば食べやすいらしいよ」との意見もあったけど、あれほど極端にマズい物体は、どんなに調理しても、あくまでもマズいはずなので、そういう姑息なごまかしをして、一緒に炒められる他の食材までマズくなるよりは、薬と思ってそれだけ飲み込んだ方がいい。他の食材が可哀相だ。
と言いながら、飲み会などで外食が続いたため、納豆のことなど忘れていた。で、ある日、突然、納豆のミニパックが食卓に登場したのだ。忘れていた嫌な物体がいきなり食卓に登場したので嫌な気分になったけど、見るからに量が少ない。これなら食べれるかも、なんて思ったけど、まずは外見で参ってしまう。どう見ても腐った食品だ。実際、腐った食品なんだけど、あまりにも気持ち悪い。初めて納豆を食べた人って、よっぽどお腹が空いて死にそうになった人だろうなあ。そうでもなけりゃあ、腐った物は食べないよなあ。
箸を入れて見ると、異様なまでに糸をひく。糸を切ろうと苦労していると、糸があちこちに絡み付いてしまう。蜘蛛の巣に引っかかったみたい。
この段階で吐き気すらもよおす私ですが、ここで止めるのも情けないので、1粒食べてみる。できれば薬と思って一気にそのまま飲み込みたかったのだが、わずか1粒でも、あまりのまずさに、舌がしびれる「タレをつけないと食べられないよ」と言われてタレをつけてみる。それでも、まだまだエグい。「カラシもつけないと無理みたい」そうか。やっぱり誰が食べても不味いから、最初からカラシがセットで付いているのか。タレもカラシもたっぷり混ぜて食べてみると、だいぶマシになった。もちろん、美味しいという概念とは正反対の気色悪い味と食感だが、なんとか飲み込んだ。
飲み込んだあとも、しつこく口の中に気色悪い食感が残る。口中がねばねばのままだ。いやーな感じ。一体なぜ、こんなに悲しい思いをして物を食べなければならないのだ。この悲しさを補って余るほどのメリットは、本当にあるのだろうか。
「食べ続けていると好きになるかもしれない」という意見もあるが、本当だろうか。
少なくとも、2日目も吐き気と闘いながら食べた私としては、なかなか好きになれそうにはないと思うな。

(2003.8.30)



〜おしまい〜





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