巨額の発明報酬(つづき)

〜 研究者の待遇改善を 〜



中村修一カリフォルニア大教授が日亜化学工業を訴えていた青色発光ダイオード(LED)訴訟の200億円判決については、以前、感想を書いたが、その後も様々な意見が出されている。その多くは、僕と同様、余りにも世間知らずで間抜けな裁判官の判断を憤るものである。

追加すべき論点としては、判決では、この特許が切れる2010年までの日亜化学の利益を予想し、その50%分と言うことで600億円という補償金を算定している。しかし、あなた、世の中の経営者で向こう7年間もの利益を予想できる人って、いるか?競争の激しい現在において、わずか3年後の利益すら、正確に予想できることなんて不可能だ。まして、技術革新が激しくて有望製品が目まぐるしく入れ替わるハイテク部品業界にあって、7年も先の予想なんて、誰もできるはずがない。利益どころか、7年も経てば、製品が存続しているかどうかも分からなければ、さらに会社が続いているかどうかすら分からない。ライバル企業の動向も分からなければ、画期的な新製品の出現だって予想できない。そもそも、問題になっている特許だって、以前は20世紀中の開発は無理だ、と言われていたものだ。それが突如、うまいこと発明されたくらいなんだから、同じように他の製品が突如として出現する可能性だってある。それなのに、今の状況だけを基に、7年も先の利益を楽観的に予想するなんて、いくら頭がカラッポの裁判官とはいえ、あまりに脳天気すぎるぞ。バカか。どうしてここまで日本の裁判官は頭が悪いんだろう。

また、中村氏の貢献度の50%という数値も無茶苦茶だ。これまでも世界中で画期的な発明をした人は数多くいるが、今回の発明よりもはるかにすごい発明をした人だって、こななバカげた評価は受けていない。
今回の発明では、それまでに数多くの研究者の先行研究の貢献があるし、素子から商品への工業化や販売努力などに多くの人間が関与し、工夫や創造がある。いくら技術開発が成功して製品ができても、必ずしも商品にはならないのはビジネスでは当たり前だ。それを、発明者だけが50%もかっさらっていくなんて、非常識も甚だしい。

と、書けば書くほどバカ裁判官への怒りがこみ上げてくるのだが、1つだけ判決の意義を見いだせる論評もあった。それは、中村氏が判決を「日本の技術者を力づける」と評価している事に関して、「湯川秀樹博士のノーベル賞や人工衛星、アポロの月面着陸に触発されて科学・技術を志した若者が、現実に企業や官界に入って目にしているのは、報われているのは法律・経済を修めた人たちばかり、という事実。この理不尽な仕打ちを初めてうち破ってくれた」とする意見だ。

そうだ!そうだったんだ!その通りだったんだ!
これは大いに賛同できる。僕自身、長らく同じ意見であり、日本の企業社会に対して怒りを覚えてきたのだ。だから、このコーナーでも、何かにつけて理科系の人間の不遇の原因である事務系人間の批判を繰り返している。
僕が大学まで理科系だったのに、会社に入るときにはコウモリのように事務屋で入ったのは、まさに技術屋が報われないからだ。同じような学歴で入社しても、技術屋の昇進は遅い。しかも、事務屋で優秀な人材は、金融業など事務屋が大半の企業にも多く入るため、技術屋も事務屋も入るメーカーなどでは、事務屋よりも技術屋の方が優秀な人が多い。それなのに事務屋の出世が早かったりするので、技術屋の怒りは相当なものだ。(って、自分がちゃっかり事務屋になっておきながら、延々と事務屋の批判をするって、ズルいっすよねえ)
役所も同じで、同じような学歴で入っても、技術職の人の出世は頭打ちになり、最後は、数学の分からない法学部卒の奴らがトップになる。だから日本の行政が無茶苦茶になるんだけど、この弊害は今後も続くだろう。

昔々その昔、大学に入る時は、将来は学者になる夢もあったけど、大学教授の待遇の悪さに驚いた。(もちろん、学者になるのを諦めたのは、待遇が悪いからではなく、自分の能力の限界を感じたからですけど)
優秀な奴ばかり集まってきた大学で、その中でも特に優秀な奴だけが教授として残れるのに、給料は驚くほど安い。企業には行って嫌な仕事をするんじゃなくて、大学に残って好きな事をできるんだから、給料が安くても仕方ないのかも、なんて思ったりもしたけど、あれじゃあ優秀な人材が流出するのも無理はない。
日本の企業の研究職も似たような状況だ。バカ裁判官がカラッポ頭で算出した50%ってのはとんでもないが、一方で、現状の日本企業で研究者に対する評価が低すぎるのも間違いない事実だ。

50%っていうキチガイじみた判決により、この問題がセンセーショナルに取り上げられ、その結果、日本企業における研究者の地位向上に結びつけば、結果としては喜ばしいことです。まさか、バカ裁判官は、そこまで見越して判決を出したのか!?

(2004.2.18)



〜おしまい〜





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