アルメニア人虐殺問題が再び蒸し返される

〜 ヨーロッパ人はアホか? 〜



オスマン・トルコによるアルメニア人殺害は「ジェノサイド(集団虐殺)」だったと認定する決議をドイツ議会が採択したもんだから、トルコとの間で問題になっている。

アルメニア人虐殺問題とは、今から100年も昔の話で、第1次大戦中の1915年ごろ、当時のオスマン・トルコが領内のアルメニア人に対し、治安を脅かしているとして強制移住させたんだけど、その際に多数のアルメニア人が虐殺されたとされる問題だ。アルメニアは最大150万人が犠牲になったと主張し、以前からアルメニア人殺害はジェノサイドだったと認められるよう働き掛けてきた。
一方、トルコ側は、多くの死者が出たこと自体は認めているが、それは大量虐殺じゃなくて、「オスマン帝国末期の混乱の中、侵攻してきたロシア軍側についたアルメニア人による反乱を鎮圧した際、アルメニアのキリスト教徒がトルコのイスラム教徒と衝突して双方に約50万人の死者が出たものだ」と反論しており、長年、対立が続いてきた。

(石材店)「相変わらず超マイナーな国際紛争の話題が好きですねえ」
(幹事長)「特に、日本と直接関係が無い国際紛争の話題は面白いよなあ」


そもそも私のような国際オタクでない限り、大半の日本人はアルメニアの場所すら知らないんじゃないだろうか。て言うか、アルメニアなんて国があることすら知らない人が圧倒的多数じゃないだろうか。て言うか、たぶん、ドイツ人やフランス人だってアルメニアがどこにあるかも知らない人が大半だと思う。

アルメニアはトルコの東側に隣接している、面積が四国の1.5倍くらいの小国だ。人口は300万人程度で、四国よりも少ない。かつてはオスマン・トルコの領内で、トルコにとっては、東側の内陸部のどうでもいいような地方にある小さな国と言う意識だろう。ただ、アルメニアの北にはロシアとの紛争が絶えないグルジアがあり、バルカン半島と並んで紛争の頻発地帯である南カフカスの、わくわくするような地域だ。アルメニアはトルコと仲が悪いだけでなく、南にアゼルバイジャンの飛び地であるナヒチェヴァン自治共和国がある一方で、アゼルバイジャン共和国にはアルメニア人が主体のナゴルノ・カラバフ自治州があり、これのアルメニアへの帰属を求めてアゼルバイジャンと本格的な衝突が起るなど、アゼルバイジャンとも仲が悪い。ナヒチェヴァン自治共和国とナゴルノ・カラバフ自治州を交換すればすっきりすると思うけど、そうはいかんだろうな。

このように、今はどうでもいいような小国だが、紀元前は交通と言うか流通の要所として、国際的な商業活動を盛んに行っていて、大アルメニア王国を築いて繁栄していた。ふぅ〜ん。しかしその後はローマ帝国やペルシアなんかの周辺の大国に翻弄され、国土は荒廃して多くのアルメニア人が故国を捨てた。オスマン・トルコの支配下では、アルメニア人虐殺問題で生き残ったアルメニア人の多くが欧米に移住し、戦後はロシアに占領されてソビエト連邦の一部となった。ソ連が崩壊した結果、ロシアのほかに14もの国がいきなり独立して、みんなぶったまげたが、その時になってようやくアルメニアも独立できたのだ。そういう過去のため、日本人に限らず、世界中の大半の人がアルメニアなんて国は知らなかったし、独立して20年たった今も、相変わらずマイナーな存在である。て言うか、よくもまあ、独立してやっていけてるわと感心するようなマイナーな国だ。

ただし、アルメニアは紀元301年に世界で初めてキリスト教を公認し、国教と定めた国であるため、ローマ法王はアルメニア人迫害を、ナチス・ドイツのユダヤ人大虐殺、ソ連最高指導者スターリンによる大粛清と並ぶ「前世紀の前代未聞の3大惨劇」と位置づけ、トルコを批判している。つまり、これはキリスト教とイスラム教の宗教戦争なのだ。
なので、ここに南京大虐殺は入っていない。ちなみに、トルコ政府と違って、日本政府は南京大虐殺の存在自体は否定していない。死んだ中国人の人数が、中国が主張する数千万人ではなくて、せいぜい数十万人だと言っているだけだ。ま、いくら中国人はアリのように掃いて捨てるほどいると言っても、貧乏な日本軍に数千万発も弾薬も無かったと思うので、数千万人も虐殺するのは不可能だと思うが、て言うか、そんなに南京の人口は多くなかったと思うが。ただし、戦争の過程では、大量の市民が虐殺されるのは特別な事ではない。日本への大空襲により多数の人が焼死したけど、それが大虐殺として問題にならないのは、日本が戦争に負けたからだ。
つまり「虐殺」かどうかって言うのは、人道的な観点から言ってるのでは決してなくて、宗教的あるいは政治的な話だ

4年前にもフランスの国会で、アルメニア人大量虐殺について公の場で否定することを禁じる法案が可決され、トルコ側が強く反発し、両国関係が悪化したが、キリスト教のヨーロッパ各国とトルコの間で、同じような事が繰り返されているのだ。
ただ、フランスやロシアなど20ヵ国以上で、この事件はジェノサイドと認定されているが、アルメニア系団体が一定の力を持っているアメリカでは「虐殺」という表現を大統領声明で使用しない方針が打ち出されているアメリカにとってNATO加盟国のトルコは、かつては対ソ連の、また現在はIS対策上、軍事的協力が必要な重要国だからだ現実に協力が必要な国に対して、100年も前のどうでもいいような定義の問題で関係を悪化させる必要はないからだ。当たり前だ。当たり前すぎる。
それなのに、ドイツ議会では反対1、棄権1以外は全員賛成という圧倒的多数で可決されてしまったいる。この決議に法的拘束力はないが、当然ながらトルコは激怒し、駐独大使を召還、さらなる措置も辞さない構えを見せた。トルコ側の「自分たちはユダヤ人を焼いておきながら、トルコ人に対しジェノサイドと非難するとは何事だ。まず自国の歴史を振り返るべきだ。わが国の歴史に恥ずべきことは何もない」との主張には頷ける。

フランスの時もアホやなあって思ったが、今回のドイツは決定的にアホだ。なぜなら、今、ドイツをはじめとするEUは、欧州へ爆発的に流入している難民の流入に歯止めをかける上で、トルコに頼っており、3月にドイツが中心となってEUとトルコとの間で「ギリシャへの密航者を原則全員トルコに送還する」という合意を成立させたばかりだからだ。この合意のおかげでドイツ国内への難民入国者数は激減したのであり、この大事なタイミングで、100年も前のどうでもいいような、本当にどうでもいいような決議をするなんて、何を考えてるんだ?

もちろん、理由はあるだろう。アルメニアと何の関係も無いフランスが4年前に100年も前の話にイチャモン付けたのは、選挙をにらんだ票集めの思惑のためだった。フランス国内には45万人のアルメニア系住民が住んでおり、その票が欲しくてアルメニア人に媚を売っていただけだ。今回のドイツは、よく分からない。でも、どうせ似たようなくだらない理由があるのだろう。どこの国も政治家のやる事ってのは同じで、どうしようもないバカばっかりだ。
何も私はトルコの肩を持っている訳でも何でもない。トルコとEUの関係が悪化しようが、まるで関係ない。好き勝手にやったら良いと思う。ただ、純粋に、本当に本当に、本当に愚かな事をするなあと呆れているだけだ

(2016.6.3)



〜おしまい〜





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