深刻化するロヒンギャ問題

〜 根本的な責任はイギリスにある 〜



ミャンマーで少数派のイスラム教徒ロヒンギャ族が迫害を受けている問題で、ミャンマーの最高指導者アウン・サン・スー・チー国家顧問が困っている

ロヒンギャ族とは、ベンガル湾に面しバングラデシュと国境を接するミャンマー西部のラカイン州に多く住むイスラム教徒で、元々はインドのベンガル地方を起源とする。顔つきは彫りが深く、タイ人や日本人と似通ったミャンマー人とは異なり、明らかにインド系の人達だ宗教はイスラム教で、タイ人や日本人と同じ仏教徒のミャンマー人とは異なる。言語は、彼ら自身はロヒンギャ語と称しているが、実際はバングラデシュの公用語であるベンガル語の方言だ。
つまり、ミャンマー人にとってロヒンギャ族は言葉も宗教も人種も異なる明らかな外国人であり、どう見ても明らかにバングラデシュに住むインド系の人達が移住してきたと言うかジワジワと進入してきた不法移民だ。

ロヒンギャ族なんていう民族名自体も元々は無かったのに、1948年にミャンマーがイギリスから独立した後、彼らが自分達を勝手にロヒンギャ族なんて名乗るようになったから、話がややこしくなった。ミャンマー人やミャンマー政府は今でもロヒンギャ族という名前の民族の存在自体を認めておらず、あくまでもバングラデシュからの移民と見なしてベンガル人と呼んでいる。ミャンマー政府の推計ではミャンマー国内に約130万人のロヒンギャ族がいるらしいが、あくまでも不法移民だから、当然ながら国籍も与えられていない

(石材店)「何となく微妙にミャンマー政府寄りの臭いがしますが?」
(幹事長)「そら、あんた、ミャンマー人は日本人に近いからひいきしたくなるわな」


以前からロヒンギャ族はミャンマー国民から差別され、軍事政権も排斥的な対応を取り続けてきた。1970年代後半と1990年代前半には、それぞれ20万人以上の大規模な難民がバングラデシュに流出したし、2012年にはラカイン州で仏教徒との間で衝突が起き、多くのロヒンギャ族が難民として周辺国に船で漂着した。
そして今回、8月下旬にアラカン・ロヒンギャ救世軍と称する総勢1000人ほどの武装集団がミャンマー政府軍を襲撃したため、軍や警察が武装グループを追ってロヒンギャ族が住む地域に入り込み、弾圧を引き起こしたのだ。
襲撃を行ったロヒンギャ族は、武装集団とは言っても、持っていた武器の大半は槍とナイフにすぎず、政府軍の基地を襲ったものの、殺害した政府軍は僅か10数名だったのに対し、自分達の方は数百名もの死者を出している。つまり、ミャンマー人からの迫害に憤ったロヒンギャ族の一般住民が、止むに止まれず百姓一揆を起こしたようなものであり、政府の対応は過剰と言うか、それにつけ込んで一気に迫害と国外追放を進めているような気がする。もしかして、最初のロヒンギャ族からの襲撃ですら、本当にあったのか、自作自演の茶番だったのではないか、あったとしても過大に宣伝しているのではないか、なんて勘ぐったりもする。

(石材店)「急にロヒンギャ族に同情的な論調に変わりましたね?」
(幹事長)「冷静で公平やろ?」


しかし、多くのミャンマー人にとっては、この襲撃事件でさらに反感が高まったのは確かであり、軍や警察だけでなく、怪しげな正体不明の民兵も加わって放火などにより住民を迫害している。怯えたロヒンギャ族は大挙してバングラデシュへ脱出しており、41万人のロヒンギャ族が難民となってバングラデシュに逃れていると言われている。(数えたんか!?)

このような事態に対し、国際社会は声高に批判しており、ミャンマー政府やスー・チー氏への風当たりは強まっている。国連の事務総長は「民族浄化と形容するほかない」なんて言ってるし、スー・チー氏が受賞したノーベル平和賞を剥奪しろなんていう声まで出ている。(ノーベル平和賞は、そもそも意味不明のバカげた賞だが
スー・チー氏自身は良い人だから、決してロヒンギャ族を追い出そうとか迫害しようとしている訳ではないのだが、ミャンマー軍がテロ対策と称して弾圧を続ける姿勢を崩さないのだ。かつての軍事政権の時代にも少数民族への迫害は強かったが、その頃は非民主的な軍事政権がやっている事だから、国際社会も諦めていたと言うか、あんまり批判はしてなかった。ところが、ミャンマーがなんとか民主化され、長年ミャンマーの民主化のために戦った民主化の象徴としてノーベル平和賞を受賞したスー・チー氏が最高指導者になったにもかかわらず、相変わらず少数民族への迫害が続いているため、よけいに批判が強まっているのが実態だ。

しかし、スー・チー氏を非難するのは気の毒だ。スー・チー氏は民主的な選挙によりミャンマー国民の圧倒的な支持を得て、大統領の上に立つ国家顧問として実質的にミャンマーを率いているんだけど、軍と警察と国境問題に対する指揮権は無い。現行のミャンマー憲法では、これらの領域については大統領ではなく軍によるコントロールを認めているからだ。つまり、彼女は自らの指揮権を用いてロヒンギャ問題を解決する法的権限を持っていないのだ。
軍に対して意見は言えるが、彼女は軍に対して配慮する必要がある。なぜなら、彼女は憲法改正に向けて長期的な戦略があるからだ。現行憲法は様々な軍の権限を認めているため、スー・チー氏としてはもっと民主的な憲法に変えたいのだが、憲法の改正のハードルは高く、上下両院議員の75%+1名以上の賛成がなければ発議できない。だがしかし、上下両院とも議席の25%は軍人に割り当てられているため、いくら選挙で完勝しても、軍が賛成しない限り憲法は改正できない仕組みになっている。軍に憲法改正の必要性と意義を納得させるためには敵対を避け、信頼関係を深めていかざるを得ない。ロヒンギャ族問題なんて、国の民主化の完成に比べれば大した問題ではないから、ロヒンギャ族を不法移民集団とみなして弾圧する軍に対して、彼女は意見を強く言えないのだ。

このような事情から、スー・チー氏を非難するのは気の毒なんだけど、気の毒と言うだけでなく、むしろ逆効果というか事態をますます悪化させるだけだ。なぜなら、スー・チー氏を圧倒的に支持するミャンマー国民そのものも、軍と同じようにロヒンギャ族に対しては敵対的だからだ。軍だけが問題なのであれば、民主化を勝ち取った時と同じように、国際社会の声を背景に国内世論に訴えて軍の態度を変えさせる事も可能かもしれない。しかし、国民自身が反ロヒンギャ族で固まっているため、それは不可能だ。
そもそも国民は「仏教徒でミャンマー語を母語とする人々だけが真のミャンマー国民である」と考えている。これは何もミャンマー人が偏狭な国民って訳ではなく、日本人だって多くの日本人が「仏教や神道を信じ日本語を母語とする人々だけが真の日本国民である」と考えているだろうから、世界中どこへ行っても同じだ。ミャンマー国内では軍によるロヒンギャ族の掃討作戦を「襲撃事件を起こしたテロリストへの攻撃」とする意見が目立つが、驚いた事に、これは人口の9割を占める仏教徒だけでなく、ヒンドゥー教徒やロヒンギャ以外のイスラム教団体からも政府の姿勢を支持するという声が上がっている。つまり、ロヒンギャ族の問題は、宗教問題ではなく、不法移民問題なのだ。不法侵入してきた不法移民が追い出されて難民になったという問題なのだ。そして、今回の襲撃事件により「ロヒンギャ族は不法移民のテロリストだ」なんていう偏見が根付いてしまった。
こういう中でスー・チー氏が国際社会から批判されると、皮肉なことに、かえってミャンマー国民は彼女への支持を一層高める要因になっている。つまり、軍だけでなく、支持してくれている国民の間にもロヒンギャ族に対する同情心が無いという状況のなかで、スー・チー氏がロヒンギャ族に対する軍の対応を変えさせる事は不可能だ

さらに付け加えれば、ミャンマー国内にはロヒンギャ族だけでなく、カチン族やカレン族など多くの少数民族を抱えており、軍事政権の頃から長年にわたって紛争が続いている。もし仮に国際的批判に押されてミャンマー政府がロヒンギャ族の要求を受け入れたりすれば、カチン族やカレン族などによる分離独立要求が一気に燃え上がり、とんでもない内戦に陥る可能性が高い。そうなると、スー・チー氏が一生懸命進めてきた民主化など吹っ飛んでしまうだろう

そして、スー・チー氏が気の毒だとか、スー・チー氏には不可能だ、なんて事だけでなく、スー・チー氏を批判して追い込めば、事態は明らかに悪い方向へ進んでいくだろう。
国際的な批判に耐えきれずにスー・チー氏がロヒンギャ族支援を打ち出せば、国民の支持を失って軍事政権の力が強まるだろうし、ロヒンギャ族問題の事態悪化を理由に、スー・チー氏に対する国際社会の支援が減ってしまえば、軍に対する同氏の発言力はますます弱まり、中途半端なままで民主化はストップしてしまうだろう。もし彼女が辞任に追い込まれれば、そのあとに何が生じるかは明白だ。彼女に代わる民主化の担い手は見当たらない彼女がいなくなれば、軍の力が一層強まってロヒンギャ族にとってはさらに状況が悪化するだろう。また国民は、スー・チー氏を辞任に追い込んだ国際社会に対する反発を強めるだろう。
その後に何が来るか?もちろん、中国の侵入だ。中国は自分の国が非民主的な独裁国家なので、他国の非民主的な動きに対しても批判しないどころが、むしろ歓迎する悪の帝國だ。自分の国にとって都合が良ければ、核兵器を開発しようが何しようがお構いなしの悪の帝國だ。そして中国はミャンマーを一帯一路の要と見做しており、かつて軍事政権だった頃はとても仲が良かった。民主化されてスー・チー氏が実権を握ってしまったため、だいぶやりにくくなったようだが、もしスー・チー氏が失脚して軍が復権すれば、あっという間に再び進出して、自分の衛星国にしてしまうだろう。特に、ロヒンギャ族が居住するラカイン州は、中国とベンガル湾を繋ぐ原油とガスのパイプラインが通っているから、中国にとってはラカイン州の安定はとても重要だ。ミャンマーを追い詰めると、中国の勢力が拡大してしまうというトンでもない事態に繋がる事を十分認識する必要がある。

日本国内もそうだが、世界中どこでも、人権派と呼ばれる独善的で視野の狭い自己中心的な輩は、とても頭が悪いため、すぐに短絡的に他人を批判する。彼らは本当に頭が悪いから場当たり的に批判するだけで、その先の悲劇を全く考えない。頭が悪すぎて、想像力が欠如しており、先の事など考えられないのだ。アラブの民主化なんか典型例だ。アホみたいにアラブの民主化を褒め称えてアラブ各国の政権打倒を後押しをした結果、リビアは無法地帯になり、イラクやシリアではISが勢力を増すなど、アラブ世界は混乱の極みに陥り、今、その後始末に世界中がてんやわんやだ。それなのにアホみたいに短絡的に民主化をもてはやした欧米諸国からは、反省や自己批判の声は全く聞こえない。

そもそもミャンマーのロヒンギャ族問題の根本原因はイギリスにある。1826年のイギリス・ビルマ戦争でイギリスが勝ってラカイン地方を植民地にしたため、ベンガル側からラカイン地方へ大量のイスラム教徒が流れ込んだ事がそもそもの始まりだ。太平洋戦争の時には、日本軍がイギリスをミャンマーから一掃したんだけど、イギリスはベンガル地方に避難したイスラム教徒を武装化して戦いを続けた。これでますますミャンマーの仏教徒はイスラム教徒のベンガル人を敵対視するようになった。太平洋戦争の後、ミャンマーはイギリスから独立したが、バングラデシュと近いラカイン州北西部は中央政府の力が及びにくい地域だったため、食糧不足に苦しむベンガル人が大量に流入してきた。そして彼らは自分達をロヒンギャ族として名乗り始めたのだ。
つまり、時期は何度かあったが、いずれにしてもロヒンギャ族はバングラデシュからの不法移民の集団なのだ。そして、その原因はイギリスにある。イギリスだけにある。そもそもインドを植民地化して好き勝手な事をやっていたために、インドはパキスタンと分裂して敵対するようになり、パキスタンからはバングラデシュが分離し、インド亜大陸はおかしな分割状態になったのだ。
ミャンマー政府はロヒンギャ族を不法移民として国籍を与えてないが、バングラデシュ政府だってロヒンギャ族を外国人とみなし、彼らへの難民資格付与を拒否している。どう考えても、ロヒンギャ族はイギリスの植民地政策の犠牲者だ。イギリスや、同じように世界中を植民地化して混乱に陥れたヨーロッパ各国は、スー・チー氏を批判する資格など無い。自分らが責任を取ってロヒンギャ族を引き取ったらどうだ?

(2017.9.23)



〜おしまい〜





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