体操協会のパワハラ・スキャンダル

〜 スポーツ団体の変わらない体質 〜



悪質な傷害タックルを指示した日本大学アメリカンフットボール部や、暴力団と交際していた会長が独裁体制で私物化していた日本ボクシング連盟に続き、今度は日本体操協会パワハラ問題で揺れている

事の発端は、体操女子の有力選手である宮川紗江選手(18)のコーチの速見佑斗コーチが、宮川選手への暴力行為で日本体操協会から無期限登録抹消などの処分を受けたことだ。
宮川選手は、2016年のリオ・オリンピックの体操女子日本代表であり、また今年の10〜11月にカタールで開催される世界選手権の代表候補でもある有力選手なので、最初は、これまた世間を騒がせた日本レスリング協会のスキャンダルと同じ構図かと思った。日本レスリング協会のスキャンダルは、日本レスリング協会の栄和人強化本部長が、オリンピックで4連覇した伊調馨選手に対しパワハラを行っていた問題だ。オリンピックで4連覇もして国民栄誉賞まで受賞した伊調選手に対してパワハラするなんて、日本レスリング協会とはトンでもない協会だなと思っていた。それに比べたら、有力選手ではあるが、伊調選手ほどの実績は無い宮川選手へのパワハラならあり得るかなあと思っていた。

ところが、速見コーチから暴力を受けていたとされる当の宮川選手が、多少の暴力を受けていた事は認めたものの、それはあくまでも「愛の鞭であり、コーチを処分しないで欲しい」と訴えた事で、事件は思わぬ方向へ展開することになった。彼女は「速見コーチの指導には厳しさの中にも人の何倍もの楽しさや優しさがあり、私は共に東京オリンピックを目指し、その中でも金メダルを目標として頑張ってきました。無期限の登録抹消という速見コーチの処分は重すぎる」と訴えたのだ。
もう少し詳細に彼女の言葉を引用すると、
速見コーチの指導は、紗江はいつか必ず素晴らしい選手になれるが口癖で、そのために何が必要なのかを具体的に分かりやすく説明してくれます。速見コーチの指導には今日も早く練習に行きたいと思わせてくれる要素がたくさん含まれています。だから私は体操が好きで毎日楽しいです。そんな中でずっと一緒に練習をしていると当然うまくいかない時期もありました。技の途中で力を抜いてしまうことや、気持ちの部分で練習を投げ出してしまい、大けがや命に関わるような場面では特に厳しく指導されました。私の記憶の限りでは暴力とされる行為で指導を受けたのはそういう場面です。そのときはそれぐらい怒られても仕方のないことだと理解していました
とても素直に納得できる話だ。速見コーチから頼まれて擁護してあげているものではないだろう。
彼女にしてみたら、小さい頃からここまで指導してくれたコーチがいきなり追放になったら、誰に頼って良いのか困ってしまうだろう。なので「速見コーチと一から出直すつもりで再スタートを切りたい。必ず復帰したいと思っている」と、速見コーチとともに東京オリンピックで金メダルを目指したいと希望しているのだ。

これに対して日本体操協会は「暴力行為は、被害者本人が我慢できても、周りで見ている選手やコーチも萎縮してしまう。暴力は断じて許さない。我々は暴力の根絶を徹底してきており、処分はこの考え方に基づく」と、速見コーチへの厳しい処分の正当性を主張した。

ここまでなら、『速見コーチは悪意は無いが指導が熱心すぎるあまり、宮川選手に対して暴力をふるった。宮川選手も、それを受け入れていたが、日本体操協会は暴力は絶対に許せないとして厳罰に処した』ということで、双方の見解が平行線だとしても、まだ理解の範疇だった。
ところが、宮川選手は、速見コーチに対する処分そのものが陰謀だと主張したのだ。彼女は日本体操協会に対して「暴力の件を使って私と速見コーチを引き離そうとしている」と不信感を表明したのだ。そして、その黒幕は塚原千恵子女子強化本部長であり、「権力を使った暴力。パワハラだと思う」と告発したのだ。

これにはたまげた。日本体操協会は、塚原女子強化本部長の夫の塚原光男氏が副会長を務めており、夫婦が絶大な権力を持っている。日本大学アメリカンフットボール部で絶大な権力をふるって暴力を推進していた内田監督や、日本ボクシング連盟で絶大な権力をふるって疑惑の審判を指示していた山根会長と同じく、日本体操協会では塚原夫妻が絶大な権力を握って私物化していた事になる。

宮川選手は何をもって陰謀だと告発したのかと言うと、塚原本部長は有力な選手がいると、自分が指導する朝日生命体操クラブに引き抜く常習犯らしいのだ。今回も、宮川選手を指導する速見コーチを追放し、行き場の無くなった宮川選手を自分のところの朝日生命体操クラブに移籍させようとしているようなのだ。宮川選手に対しては、日本体操協会からナショナルトレーニングセンター(NTC)の利用制限がかけられ、「このままでは五輪に出られなくなる」などと脅しの電話があったようだ。
そもそも夫婦で日本体操協会の要職についているって事自体が異様だ。日本ボクシング連盟の山根会長が自分の息子を副会長にして、家族で連盟を支配していたのと同じだ。全日本のコーチ陣も朝日生命のコーチ陣が何人も入っており、イエスマンだけで固めている
塚原夫婦が日本の体操界に対して大きな貢献をした事は事実だ。しかし、だからと言って、好き勝手やって良いはずはない。かつて、1991年には、全日本体操選手権で千恵子氏を中心とする審判団の採点法に不満が爆発し出場選手中91人中55人が大会をボイコットするという事件が起こり、当時強化部長だった千恵子氏は辞任した。その当時から絶大な権力をふるって私物化していたようだが、せっかく辞任したのに、いつの間にか再び復活して絶大な権力を握っていたのだから、驚きだ。

宮川選手の告発に対して、夫の塚原光男副会長が「全部うそだ。なぜ彼女があんなうそ言うのか、ちょっとわからない」と全面否定したが、まさに、日本大学アメリカンフットボール部で内田監督の傷害タックル指示を正直に暴露した選手の言葉を全否定した日本大学と全く同じ構造だ

いくら日本体操協会が否定しても、今後、色んな所から色んな証言が出てくるだろう。こういう事態が起きた背景には、小さな体操クラブに所属している多くの選手の積もりに積もった不満があるはずだ。日本体操協会は、塚原夫婦の利益のためではなく、勇気を振り絞って発言した選手を守り、自由に育ててもらいたいと思う。

(2018.8.30)



〜おしまい〜





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