野口選手に罪は無い

〜 グローバリーは怖い会社だけど 〜



アテネオリンピックが閉幕して、やは3週間になりますが、女子マラソンの野口みずき選手の驚異的な頑張りは、今でも鮮やかに感動を蘇らせてくれます。
ところが、野口選手が所属するグローバリーという会社について、すさまじい悪評が立っており、野口選手にまで非難の矛先が向けられたりしています。

グローバリーって、一体、何の会社なのか。一般の人は、これまでほとんど知らなかったようだ。野口選手が金メダルを獲ったことにより、グローバリーっていう会社がにわかに注目を集め、話題になっているようなのだ。僕はマラソン愛好家なので、以前から関心があった。女子マラソン選手の所属企業名として、ワコールとか天満屋といった馴染みのある企業名の中にグローバリーとかサミーとかいう馴染みのない企業名が出てくるので、気になって調べていたのだ。グローバリーとは、商品先物取引の会社なのだ。
(ちなみに橋本康子選手が所属するサミーはパチンコの機械を作っている会社です)



先物商品取引とは

先物商品取引とは何なのか。簡単に言えば、普通の商品売買のように、目の前にある現物をその場で売買するのとは違い、将来の先日付で売買する取引だ。例えば、「半年後に米60kgを1万円で売買する」契約をかわすようなものだ。何のためにそなな事をするかと言えば、半年後の値段が分からないので、今のうちに売買を済ませておきたい人がいるからだ。例えば、農家とすれば、半年後に米の値段が下がっていれば損しちゃうので、今のうちに高い価格で売りたいのだ。じゃあ誰が買うのか、と言えば、「半年後に米の値段が上がるはずだ」と予想している人だ。今のうちに安く買っておけば、儲かるからだ。このように利害が一致すれば、先物商品取引が成立する。元々は、安定した価格で取引をして価格変動リスクを回避したい生産者と、リスクはあるけど一発大儲けを企む投資家(投機家)の間で成立するものだ
このように、先物取引というのは非常に重要な商取引であり、社会経済の安定のためには必要不可欠と言えよう。先物取引というと、非常に怖い世界の悪の取引みたいなイメージもありますが、原理的にはとっても大切なものだ。

ただし、現実には、このような原始的な取引が行われている訳ではなく、先渡し取引の対象商品や受渡期日や売買単位などを定形化したものが株式のように取引所に上場されており、一般の投資家は、それを売買する。
普通の株式投資との違いは、株なら1万円で買えるのは1万円の株式だが、先物商品取引の場合は、例えば、1万円あれば10万円分の取引ができる点だ。買ったものの価格が1割上がれば、株なら1千円しか儲からないが、先物商品取引の場合は、1万円の投資で1万円儲けることができるのだ。もちろん、逆に価格が1割下がれば、株の場合は千円の損にとどまるが、先物商品取引なら1万円がまるまる吹っ飛んでしまう。つまりハイリスク・ハイリターンなのだ。
(株の取引ですらバクチのように偏見視する人から見れば、とんでもない取引ですな)

まあ、しかし、先物商品取引に限らず、ハイリスク・ハイリターンの商品は色々あって、僕も、「円ドルの為替変動で円が10%下がれば3倍の30%儲かる」という商品や、株式でも「日経平均の変動の2倍のリターンがある」という商品を買ったこともある。結局、どちらも、ほとんど儲からなかったけど、普通の為替や株式に比べて変動が大きいので、ハイリスク・ハイリターン商品は面白い。毎日、相場に釘付けだ。
だから、必ずしもハイリスク・ハイリターン商品が悪の取引なわけではない。投機家が大儲けしたり大損したりする一方で、そのおかげで業績が安定する企業があるわけだから。最近、だいぶ広まってきた天候デリバティブだって同じだ。雨が降ったら客が来なくて損をする遊園地とか、雪が降らないと損をするスキー場が、保険のような意味合いで天候デリバティブを購入するのだ。この場合、それを売っている金融機関がリスクを引き受けるのではない。金融機関は間に入って取り次いでいるだけだ。相手方には投資家(投機家)がいるのだ。投資家は雨が降ったり雪が降らなければ損をし、逆に雨が降らなかったり雪が降ったりすれば儲かる。半丁バクチやルーレットと同じで、一発勝負の完全なバクチである。多少は腕が関係するパチンコや、色んな要素を分析する競馬なんかに比べれば、かなり単純なバクチだ。
だから、バクチのようだからと言って先物取引を否定してはいけないバクチ取引を引き受ける投資家(経済学では Risk Taker と呼ぶ)の存在は、経済の安定には必要なものなのだ。



グローバリーという会社

ただし、いくら先物取引が経済的に見て必要不可欠な重要な取引だとしても、現実の先物商品取引の会社がまもとだと言う訳ではない

まず最初に、先物商品取引会社の勧誘は無茶苦茶。僕にも、よく電話で勧誘があるが、最初は「高校の後輩なんですが」なんて嘘八百並べながら馴れ馴れしく会社の説明とかして、「そのうち良い情報が入ったら連絡しますね」なんて言って切るのだが、数日して「大変な事が起きましたっ!大豆相場が急上昇してますっ!今ならまだ遅くないですよっ!ぜひ投資しましょう!!」なんて芝居がかったわざとらしい大声で叫んでくる。もちろん、奴らは絶対に「絶対儲かる」って言うけど、まさか、それを信じる人はいないでしょう?絶対に儲かる話があれば、普通は自分で投資するでしょ?赤の他人にわざわざ電話で知らせてくれるボランティアはおりませんぜ
それから、奴らは商品知識は無い。一度、石油取引の勧誘もあったが、「僕はエネルギー関係の仕事をしているから石油相場には詳しいのだけど・・・」なんて話し始めたら、適当な事を言いながらすぐ切っちゃった。商品そのものの知識はゼロに近い。単なる電話セールスをやっているだけだ。少しは勉強したら、って言いたいが、欲ボケの頭の悪い奴らがうまいこと引っかかれば良いくらいにしか考えてないから、まあ、いいのだろう。

勧誘もひどいが、一回手を染めたら、それこそ泥沼だ。一般的に言って、儲かっても、やめさせてくれない会社が多いのだ。「取引で利益が出たから決済して終わりにしたい」と言っても決済させなかったり、決斉しても無理矢理再投資させたり、損が出たら「損害を取り戻すため」と言ってさらに資金を入れさせたりするのが、一般的な手口だ。一度、入金したら最後で、預託資金がなくなるまで取引を続けさせる業者が多いのだ。なかなか足を洗えないのだ。

まあ、一般的に言えば、先物商品取引の会社ってのは、こういう悪質なのが多いが、誠実な先物取引会社も無いとは言い切れない。名前だけ見ると、三菱商事フューチャーズとか、三井物産フューチャーズなんかだと、いかにもまっとうそうだ。いくらなんでも三菱商事や三井物産の関連会社が悪徳商法はしてないだろうと思わせる。ただし、伊藤忠の関連会社である伊藤忠フューチャーズに関しても苦情があったりするので、この業界は何があるか分からない。
僕の知人には、パラジウムの取引で100万円儲けた段階で手を引いた人がいるけど、彼はパチンコでもプロ級であり、先天的な勝負師なので、参考にはならないなあ。他には、トウモロコシで損得無しで足を洗った人もいるけど、彼の場合は、儲かっている段階でやめたかったけど、なかなか解約してくれなかったらしい。

その中でグローバリーって会社はどうなんだ、と言えば、グローバリーは名古屋証券取引所第2部に上場しているほどだから、商品先物取引会社としては大手である。大手だが、大手だから誠実って訳では、全然ない。これはサラ金と同じだ。グローバリーは苦情や被害が最も多い業者とまで言われている。グローバリーによって貴重な財産を根こそぎ奪われ、借金までさせられたという被害者もたくさんいる。
これについてグローバリーは「顧客数が業界一ということも、そうした批判の原因ではないか。当社としては他業種に比べて特段トラブルが多いという意識はない」って答えている。ふむ。なるほど。これは詭弁ではなく、その通りのような気がする。グローバリーが特段、悪徳って訳ではないだろう。どこも似たり寄ったりだろう。やはり大手なので苦情も多いだけなんだろう。

ただし、この世界でグローバリーの悪名を一気にとどろかせたのが、大分県の殺人事件だ。グローバリーの顧客だった男が、グローバリーの営業マンを殺害して現金を奪ったとして大分地裁で裁かれたのだが、裁判所が「グローバリーの商法は組織的な違法行為だった可能性が極めて高く、情状酌量の余地がある」として、無期懲役ではなくやや甘い懲役15年の刑を言い渡したのだ。つまり、殺されたのはグローバリーの社員だが、その営業活動の組織的違法性を認定し、裁判所が「被害者が殺されても仕方ない」と認めたようなものなのだ。結構、すごい判決だ。



野口選手に罪は無い

野口選手が金メダルを獲得したことが好感されて、グローバリーの株価は大幅に上昇し、1996年11月の上場以来の高値を更新した。グローバリー広報部は「グローバリーがどういう会社か、投資家が興味を持って頂いたおかげだろう」と言っているが、それは違うぞ。先物取引なんていうと一般の人は怖がってなかなか手を出さないけど、「あの野口選手のグローバリーですよ」なんて言うと、馴染みの無い人も妙に安心してしまって先物取引に手を染めてしまうから、これでグローバリーの業績アップ間違いなし」って事で株価が上昇したんだろう。何も知らない田舎の小金持ちの年寄りなんて、あっさりだまされそう。実際に、グローバリーの被害者のなかには「野口選手の会社といわれて信用したが騙された」という人もる。ほんまかどうか知らないが。

このため、グローバリーの被害にあった人を中心として、野口選手を宣伝に使うグローバリーの姿勢を非難する声が出ている。
しかし、それは非難される事だろうか。確かに、野口選手はグローバリーに利用されている。でも、そもそも宣伝効果を狙って採用したんだから、利用するのは当たり前だ。野口選手に限らず、ヤワラちゃんをトヨタが採用したのも、井上康生を綜合警備保障が採用したのも、すべてスポーツ選手を企業が採用しているのは、全て例外なく宣伝効果を狙ってのものである。マクドナルドが女子ホッケーチームの選手を1年間食べ放題にしたのも宣伝効果を狙ったものだ。そんなん安いもんやで。グローバリーが野口選手をセールストークに使っても、それは当然のことだ。不思議でもなければ、モラルに反している訳でもない。グローバリーは陸上だけでなく、他のスポーツ選手も採用しており、ソルトレークシティ・オリンピックにも代表選手が派遣されている。

グローバリーは野口選手に報奨金として5千万円も出すという噂もあり、もしかしたら、もっと多いかもしれないが、これだけ企業宣伝というか企業イメージアップに貢献しているのだから、当然だろう。トヨタだってヤワラちゃんを全面バックアップするために、専属の練習パートナーを5人も雇い、アテネ市内に1泊20万円するホテルを用意したくらいだから、宣伝効果があるのなら企業は大金をつぎ込むのだ。
しかし、これに対しても、グローバリーの被害者からは「そんな金があるのなら、我々に返せ」なんて罵声が飛んだりしている。さらには、そもそも、悪いことばっかりしているグローバリーなんて会社に野口選手が所属している事自体を批判する声すらある。「そんな悪徳企業とは、早く手を切れ」なんて。

しかし、そなな事を言う人は、これまで野口選手がどれだけ苦労してきたか知っているのだろうか
野口選手は高校時代はさほど目立った実績は無かったのだが、高校卒業後、マラソンの名門であるワコールに入社し、アトランタ五輪12位の真木和選手らを育てた藤田信之監督に師事したのだ。ところが、藤田監督がワコール本社との確執から退社してしまい、野口選手も真木選手と一緒に監督の後を追って退社した。この事件の真相は、部外者がどうこう言うものではないが、個人的に知っている選手も、この時に同時にワコールを辞めており、彼女の話を聞くと、少なくともその当時は、藤田監督あってのワコール陸上部であり、監督と一緒に選手が辞めたのは仕方なかったのだろう。
とにかく、野口選手も藤田監督ともどもワコールを辞めたんだけど、すぐに拾ってくれる企業は現れず、随分、苦労したのだ。一時は何人かでアパートを借りて共同生活しながら、ハローワークに通って失業保険で暮らしていた。その時もトレーニングだけは欠かさなかったというから、すごい根性だ。根性という能力が先天的に欠落している僕としては、考えられない。しかも、当時は自らを「チーム・ハローワーク」と称していたというから、明るい性格です。

そして、藤田監督をようやく拾ってくれたのがグローバリーだったのだ。1999年2月に女子陸上部初代監督としてグローバリーに招かれたのだ。もちろん、この時に既にグローバリーについては悪評が立っており、監督の支援者は反対したようだが、有名企業数社から断わられていた監督としては、選択の余地は無かったのだ。そしてこのとき、野口選手も藤田監督と共にグローバリーに採用された。
グローバリーは「金メダル効果がここまで出るとは思ってなかった」と言っているが、それほど実績があった訳でもない野口選手を採用したグローバリーは、まさに大きな先物買いだったと言える。さすがは先物の専門家じゃ。

ま、それは冗談だけど、野口選手がグローバリーに所属していることを非難する人に対して、「それじゃあ、一体、誰が野口選手(と藤田監督)を助けたんだ?」と言いたい。グローバリーが彼らを拾ってなかったら、アテネオリンピックの金メダルは無かったんだよ。非難するのなら、彼らを放り出したワコールを非難すべきじゃないのかね?
陸連関係者も、ひとつ間違えればスキャンダルに発展しかねない事態を憂慮しているようだが、だったら、なぜ、グローバリーに行く前に救済しなかったのだ?



欲深人間に非難する資格は無い

このように苦労を重ね根性で乗り切ってきた野口選手に比べ、グローバリーの被害を訴える人々は、どういう人だろう?はっきり言って、真面目に働かず、濡れ手に粟のボロ儲けを企んだ強欲人間じゃないのか?欲深でない人が商品先物に手を出すか?みんなみんな、楽してボロ儲けを夢見たんだろ?

勧誘セールスは「絶対に儲かりますっ!」って言うけど、もしそれを信じて被害を被ったのなら、完全に自業自得だ。そななトークを信じる人がいる事が信じられないわ。この世の中に、犯罪でもない限り、うまい「儲け話」なんて滅多にあるわけない。仮にあったとしても、「儲け話」ってのは、知ってる人からコソコソと耳打ちで教えてもらうものであり、赤の他人から突然かかってきた電話で聞くことなんてできないものだ。大事件に発展したリクルート事件の「濡れ手に粟」の大儲け話のように、政治家に対してこっそり持ちかけられたりするのが「儲け話」だ。儲からない話だからこそ、電話がかかってくるのだよ。本当に儲かる話なら、電話をかけてくる人がするはずだ。本当に儲かるなら、その会社が、銀行からお金を借りてするはずだ。

「商品取引で財産を無くして自殺した人がいる」なんて話もあるけど、それは、普通のギャンブルと同じだ。どんどん深みにはまって抜け出せなくなって収拾がつかなくなったのだろう。競馬や競輪でも財産を無くして自殺した人はいるだろうけど、競馬や競輪は行政がやっているのよ。犯罪じゃないのよ。余裕資金で夢を見てギャンブルして損をするのはいいけど、理性を失って泥沼に入るのは、自己責任だ。先物商品取引だって同じだ。

以前も、ジー・オー・グループというネズミ講のような団体の事件で書いたし、昨日もペルー金貨を使った儲け話の詐欺で100億円も集めていたおっさんがおりましたが、欲に目がくらんで損した人なんて、騙される方も悪いにきまっている。

自分が欲を出したから損をしたくせに、偉そうに被害者ぶって野口選手を非難する資格なんて無い。

欲深人間に、努力と根性の野口選手を非難する資格は無いっ!

恥を知れっ!

(2004.9.17)



〜おしまい〜





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