エチオピアのティグレ紛争

〜 ティグレの反撃なるか 〜



エチオピアで中央政府軍と北部ティグレ州政府を率いるティグレ人民解放戦線(TPLF)の武力衝突が激化の一途をたどっている
もうワクワクして、大興奮でゆっくり朝寝もできない状態だ。

(ピッグ)「また民族紛争ですか」
(幹事長)「21世紀になっても民族紛争の種は尽きないぞ」


残念ながら、私はティグレ紛争については、ナゴルノ・カラバフ紛争ほど造詣が深い訳ではない。
ただ、ほとんどの日本人は無関心で何の知識も持っていないだろうから、ティグレ紛争の背景から説明しよう。
て言うか、そもそも多くの日本人は、エチオピアという国について国名とアベベのことくらいしか知らないだろうから、エチオピアという国について説明しなければならない。

(ピッグ)「驚きましたが、若い人はアベベを知らなんですよ」
(幹事長)「なんとかーっ!アベベを知らずしてマラソンを語るべからず!」


エチオピアアフリカの東部に位置する国で、南にケニア、西にスーダン(スーダンのうち南部は南スーダンとして独立した)、東にソマリア、そして北には1991年にエチオピアから独立したエリトリアがある。
エチオピアは人口約1億人で、約2億人のナイジェリアに次ぎ、エジプトやコンゴと並ぶ地域大国でもある。

国民の大多数は黒人とアラブ人の混血と推定されているエチオピア人種が大多数を占めているが、その中で数多くの民族集団が存在する
最大の勢力はオロモ人で34%を占め、次にアムハラ人が27%を占め、その他ティグレ人6%、ソマリ人6%などが続く。

アフリカ諸国の大半は、かつてヨーロッパ諸国が分捕り合戦して植民地化して好き勝手に引いた国境によって形成された新興国家だ。そのため国境と民族との関連性が薄く、根本的に多くの民族紛争の種を抱えている
1つの国の中に多種多様な民族が暮らしている一方で、同じ民族が複数の国に分かれて暮らしている。アフリカ諸国では紛争が尽きないが、その大半は民族紛争だ

その中で、エチオピアはアフリカ最古の独立国であり、現存する世界最古の独立国の一つでもあるから、他のアフリカ諸国とは格が違う。
エチオピアには古くからいくつかの王朝が栄えてきたが、近代のヨーロッパ諸国の侵略にも耐え、黒人国家で独立を守り切ったのだ。
とは言え、やはり国内に民族紛争の種は抱えている。

近代の歴史を見ると、第二次世界大戦の直前にイタリア軍に占領され、一時的にイタリアの植民地となったが、イタリアの敗北により再び独立した。
その後、エチオピアは北に位置するエリトリアと連邦を組み、1952年にエチオピア・エリトリア連邦が成立したが、このエリトリアがそもそもの大きな問題だった。
いったんは連邦を形成したものの、1962年にエチオピアはエリトリアを併合してしまった。
その後、エチオピア国内は各民族による反政府闘争や旱魃などにより混乱を極め、軍のクーデターによる帝政の打倒や、中国やロシアの介入などによる紆余曲折を経て、エリトリアの独立を目指すエリトリア人民解放戦線(EPLF)とティグレ人民解放戦線(TPLF)が手を組んでエチオピアで政変を起こし、政権を獲った
その結果、エリトリアは1991年に独立を果たしたが、ティグレはどうなったかと言えば、TPLF中心とした反政府勢力がそのまま政権をとってしまったから、ティグレを独立させるという事なんて発想はなく、エチオピア全体を支配してしまった

ここまでの経緯を考えると、エチオピアとエリトリアの関係は良好になったように思えるが、そうはいかなかった。
いったんは正常化した両国の関係だが、沿岸部のエリトリアの独立により内陸国となったエチオピアによるエリトリア国内の港湾の使用料の交渉が難航したことなどから、両国の関係はふたたび悪化し、国境線が未確定のままだった地域を巡る紛争が勃発した。
この紛争においては、ロシアがエチオピアを支援し、ロシアと敵対するウクライナがエリトリアを支援して泥沼化していた。

そうこうしているうちに、長らくTPLFが主導権を握っていたエチオピア政府は、2018年にオロモ人のアビィ首相オロモ人として初めての首相に就任した
かつてエチオピア帝国を建国したのはアムハラ人であり、帝国の崩壊以後もアムハラ人がエチオピアの政府の中枢を握ってきたが、1991年の政変以降はTPLFすなわちティグレ人が権力を握っていた。
しかし、最大の人口を抱えるオロモ人が徐々に力をつけてきて、ついにはオロモ人の首相が就任した訳だ。
そして、それまで30年間にわたって政府を支配してきたTPLFは、アビィ政権下では政治の中枢から排除された

アビィ首相は敵(ティグレ)の敵であるエリトリアとの関係正常化を進め、戦争状態を終焉させた。アビィ首相はこの功績により2019年に悪名高いノーベル平和賞を贈られた
一方、TPLFはエチオピアでの主導権を失ってティグレ地域に引きこもった
ティグレ州はエチオピア北部にあり、エリトリアと接する地域だ。面積は約8万5千km2だから北海道とほぼ同じ、人口も500万人ちょっとで北海道とほぼ同じ。面積も人口も北海道とほぼ同じで分かりやすい。
このような経緯から、当然ながらTPLFはエチオピア中央政府との関係が悪化し、そして遂に11月になって内戦が勃発したのだ。
アビィ首相は、TPLF側が政府軍の基地を攻撃したのが原因だとしているが、このような紛争においては、どっちを信じていいのかは分からない。

アビィ政権のエチオピアと関係を正常化したエリトリアは、もちろんエチオピア政府の側につき、エチオピア政府と一緒にティグレを南北から挟み撃ち攻撃している。そのためTPLFはエチオピア政府だけでなくエリトリアとも戦争状態に陥っている。
アビィ首相はTPLFに対して降伏するように通告し、従わない場合は、さらに大規模な攻撃に踏み切る姿勢を示している。
しかし、そもそもTPLFは1991年にエチオピア中央政府を打倒した組織であり、現在も25万人規模の兵力があるとされているから、早々簡単に降伏することはないだろう
今後、アビィ政権がティグレを制圧するのか、それともTPLFが逆にエチオピア政府を打倒するのか、ワクワクして目が離せない。

ところで、今回の紛争に関して指摘しておきたいのが、悪名高いノーベル平和賞だ。

ノーベル平和賞については、これまでも散々批判してきたが、ノーベル平和賞の歴史は疑問と欺瞞の歴史だ
例えば2007年のゴアの受賞はひどかった。豪邸に住んで資源を大浪費しながら環境問題を語る詐欺師に対して、なぜノーベル平和賞を贈るのか全く理解できなかった。大統領選挙に落ちたから環境問題に活路を見いだして良い格好しようとしているだけなのに。
ほかにもゴルバチョフとかアラファトとか北アイルランドのテロリストとか、およそ平和とはほど遠い人たちがたくさん受賞してきた。選考しているのがノルウェー国会とは言え、あまりにも政治的な選考は、ノーベル賞の価値を貶める以外の何物でもない。

その中でも特に酷かったのは2000年の金大中韓国大統領の受賞だ。あまりの事にボーゼンとした。金泳三韓国元大統領が「ノーベル賞の価値も地に落ちたもんだ」と吐き捨てたが、まさにその通りだった。
あんな奴の受賞はノーベル賞の価値を貶める以外の何ものでもないが、金大中の受賞がトンチンカンだったことは、その後、朝鮮半島の南北対立が深まることはあっても緩和することが無く、核兵器をガンガン作ってミサイルをバンバン撃ちまくって今にも核戦争を引き起こしそうな北朝鮮に対してなすすべがない事実が如実に証明している。

また2009年にオバマ大統領が受賞した時も、あまりの事にボーゼンとなった
オバマ大統領自体に対しては、大嫌いな民主党ではあっても、過去のしがらみが無い若い黒人のオバマには、どっちを向いてもどん詰まりの国際情勢を、とんでもない大胆さで一気に風穴を開けて前進させてくれる可能性があったので、何かしら期待はしていた。ただ、それはあくまでも可能性であって、何の実績も上げていなかった時点で授与した事に、極めて政治的な意図を感じた。
そして、その後、恐れていたとおりオバマは口先だけで何の実行力も無く、アメリカの外交が支離滅裂に迷走して世界平和を乱すことはあっても貢献することが無かったことが、彼への授与の大失敗を如実に表している。

さらに2016年は南米コロンビアのサントス大統領が受賞したのでビックリした。コロンビアで半世紀にわたって続いてきた反政府ゲリラとの内戦を終了させようとした業績が評価されたのだが、なんと受賞発表の数日前に、彼が提案した和平案が国民投票によって否定されていたのだ。
つまり、大統領とゲリラは勝手に和平交渉でまとまったが、その和平案は国民には受け入れられなかったのだ。そななクズのような和平案をまとめたからってノーベル賞の受賞理由になるなんて、ノーベル平和賞の価値は地に落ちた。

このように意味が無いどころか、百害あって一利なしのノーベル平和賞だが、今回のティグレ紛争を引き起こしたアビィ首相も昨年、ノーベル平和賞を受賞した
理由は上にも書いたようにエリトリアとの戦争状態を終結させたことだが、エリトリアとの戦争を終結させたのは、何も彼が平和を愛する人間だからではない。決して、そうではない。
彼がエリトリアとの戦争を終結させたのは、エリトリアとの間にあるティグレを制圧するためだ。エリトリアと組んでティグレを挟み撃ちにして制圧するためだ。
それくらいの簡単な事がノーベル平和賞を選考しているノルウェー国会のバカたれ共には分からなかったのだろうか。まあ、金大中とかオバマに授与したくらいのトンチンカンな連中だから、分からなかったのだろう。

もう1つ、今回の紛争に関して指摘しておきたいのが、中国の手先として悪名高い世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長だ。
エチオピア政府はテドロスがTPLFを支援しているとして非難している。テドロスは国際的な要職にある自らの立場を利用し、TPLFへの国際的な支援や武器供給に動いているというのだ。
テドロスは、アビィ首相が就任するまで長年にわたって政権を握っていたTPLF政府において保健相や外相を務めた後、2017年にWHOトップに就任したという経歴からして、TPLFを支援するのは当然だろう。
ただ、私はエチオピア政府とTPLFとの戦いにおいては中立的だが、テドロスは中国の手先なので、断じて許すわけにはいかない

ティグレ紛争は、少数民族のティグレ人を多数派のオロモ人が抑圧している構図だと捉えると、ティグレを応援したくなるが、このように非常に複雑な構造だ。
ティグレは決して可哀そうな少数民族ではなく、長年エチオピア全体を支配していた強力な勢力だ。なので、単純に同情すべき立場ではない。
また、ティグレは中国やロシアとの関係が深い。その点でも警戒しなければならない。
決して、単純な少数民族に対する抑圧と捉えてはいけないのだ。

(2020.11.24)



〜おしまい〜





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